勝率3%からの逆転 「勝訴したよ」家政婦だった妻へ9年越しの報告
「勝訴したよ。安心して」 10月下旬、山形県遊佐町の海岸で、東京都の男性(77)は心の中でつぶやきながら、花束を海へ投げ入れた。20代の頃、何度もデートで訪れ、9年前に妻の遺骨を散骨した海。亡き妻への裁判勝訴の報告だった。 【写真】妻の遺骨を散骨した海を訪れた男性。このあと、花束を海に投げ入れた=2024年10月26日、山形県遊佐町、杜宇萱撮影 2015年5月、家政婦と介護ヘルパーとして働いていた妻(当時68)を突然、失った。要介護者宅に泊まり込み、7日間連続、総労働時間にして105時間の勤務の後、倒れた。死因は急性心筋梗塞(こうそく)だった。 「介護の仕事は自己犠牲を払わずにはできない仕事。だけど私は続けます」と家族に思いを伝えるほど、要介護者の安全の見守りを大切にしていた。 遺体安置室で、横たわる妻の額に手を当てた。「長時間労働、きつかったろう」。泊まり込みと連続勤務が多く、突然の死は過労が原因だと思った。だが、労働基準監督署は、妻を一般家庭に雇われた「家事使用人」とし、労災の適用外とした。 ■家事は労災の対象か 20年、弁護士から勝率3%と言われたが、「妻の名誉のため」と国を相手に不支給処分の取り消しを求める訴訟を起こす。22年の一審・東京地裁は、労働災害の検討対象は、全体の労働時間のうち、介護業務をした3割のみで、残りの家事の時間を「家事使用人」の業務とし、労働基準監督署の判断を支持した。 男性は「実態調査を省略した形式的判断だ」と控訴。NPO法人「POSSE」の支援を受け、家事労働者へ労基法や労災保険の適用を求めるオンライン署名約3万5千筆を厚生労働省に提出。今年9月、東京高裁では家事と介護を一体の業務とし、家事の労働時間を合わせれば過重業務だったと認め、男性が逆転勝訴となった。 「妻と同じように働く人たちが、今回の判決で少しでも救われれば。家政婦が労働者として認められ、労働基準法が改正されるまで私は闘います」と話した。
朝日新聞社