アメリカ式民主政治とは? 中間選挙は対立と混乱の始まり
路線対立が先鋭化 「顔」のいない民主党
民主党も今回の選挙の中で、多くの困難を抱えていることが明らかになった。前回2016年大統領選挙に際しても、民主党はヒラリー・クリントンを支持する穏健派と、バーニー・サンダースを支持する左派の対立が明確に表れていたが、今回もその傾向が顕在化した。それを象徴するのが、ニューヨークを地盤として再選を積み重ねてきた穏健派のジョー・クローリーを、左派で無名のアレクサンドリア・オカシオ・コルテスが予備選挙で下したことである。彼女は前回の大統領選挙でサンダース陣営に加わった活動家である。 それに加えて、今回の中間選挙では、ブレット・カバノーの連邦最高裁判事承認問題や#MeToo運動をきっかけに、女性有権者や活動家が大きな存在感を示した。トランプの移民政策に反対する中南米系有権者も大きな意味を持った。このように、民主党では、経済的争点について左傾化する人々に加えて、アイデンティティ・ポリティクスを重視する人々の存在感が増大しているのである。 比較的狭い範囲に居住していて同質性の高い有権者を対象とした選挙戦を展開すれば勝利できる下院選挙と異なり、大統領選挙で勝利するには穏健な有権者の支持を獲得することが不可欠になる。その観点からすれば、民主党内には、2020年の大統領選挙で勝利するために、ジョー・バイデン元副大統領のような穏健派でないとだめだという声がある。他方、先鋭化した左派の人々は、トランプに対抗するためには民主党も左傾化を強めて特徴を明確にしなければならないと主張している。 このような路線対立が何らかの方向で終息するとは考えにくく、仮に両方の立場に立つ人々を束ねる方法があるとすれば、反トランプという姿勢を明確にすることしかないだろう。これは、2020年に向けて二大政党の対立がさらに鮮明になる可能性が高いことを意味しているが、民主党が反トランプだけで大統領選挙に勝利することができるかは疑問がある。民主党も党のあり方を模索し続ける必要があるだろう。 2018年の中間選挙は、アメリカ政治の対立と混乱の終わりではなく、新たな対立と混乱の始まりという意味を持つことになったともいえる。今後のアメリカ政治の動向に注目する必要があるだろう。
------------------------------------ ■西山隆行(にしやま・たかゆき) 成蹊大学教授。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学教授を経て現職。主著に『アメリカ政治講義』(筑摩書房、2018年)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会、2018年)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房、2016年)、『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会、2008年)など