アメリカ式民主政治とは? 中間選挙は対立と混乱の始まり
「保守」と「リベラル」をあえて曖昧に
一般にアメリカの二大政党である民主・共和両党は、それぞれリベラル・保守の政党だといわれている。だが、ここで注意する必要があるのは、リベラルや保守という言葉が意味するところが決して一様ではないことである。ヨーロッパなどで比例代表制の選挙制度が採用されている国では、特定のイデオロギーに基づいて政党を組織しても一定の議席を確保することができるため、多くの政党は一貫した方針を持つ綱領政党になりやすい。 これに対し、建国期から小選挙区制を採用してきたアメリカでは、多様な利益・関心を糾合しないと大統領選挙などで勝利することができなくなる。そのため、アメリカの二大政党は、イデオロギー的な一貫性を無視してでも、様々な利益・関心を持つ人々を集約する形で選挙を戦う必要が出てくる。 それに加えて、アメリカは国土が広く、有権者構成でも地理的な面でも多様性が高いため、同じ民主党や共和党という名を冠してはいても、選挙区によって候補者の掲げる方針に相違が生まれる可能性が高くなる。そもそもアメリカの場合は、候補者の公認権を党本部が持っておらず、連邦議会選挙の候補についても予備選挙や党員集会で選挙区ごとに選出されるのが一般的である。 こうした事情を考えると、アメリカの二大政党は、利益集団の連合体、そして、地方政党の連合体という性格を持っていると言うことができる。言うなれば、二大政党はあえて保守やリベラルという言葉の意味を明確化せずに、「自称保守」や「自称リベラル」の人々を連合させた団体だということなのである。
短期的には「トランプ的」手法は効果
これは先述したように、二大政党はともに内部に対立する要素を抱えていることを意味している。 まず、共和党については、2016年大統領選挙と今回の中間選挙を経て、白人の政党としての性格を強めた。この白人たちの中でも、以下の2つの集団が中核となっている。 1つ目は、ラストベルト(さび付いた工業地帯)の白人労働者階級の人々である。製造業に従事していた彼らは、もともとは民主党に投票していたが、社会的、経済的地位の低下に伴い、アメリカ社会に不満を感じるようになっていった。彼らは、グローバル化と移民、不法移民がアメリカ国民から雇用を奪っているというトランプ大統領の主張を支持し、自由貿易反対や厳格な不法移民取り締りなどの政策を支持している。 2つ目は、福音派と呼ばれる保守的なキリスト教信者である。彼らは、人工妊娠中絶の禁止や同性婚反対などの姿勢を明確にしており、同様の立場をとる人物を連邦最高裁判所判事に任命すると公約し、実施したトランプを支持している。 近年のアメリカでは移民にルーツを持つ国民の人口が増大しており、2040年代には中南米系を除く白人の人口比率は50%を下回ると予想されている。そのため、共和党は中南米系などのマイノリティの支持を確保しなければ未来がないと指摘されていた。とはいえ、現時点ではアメリカ国民の過半数が白人であることを考えると、トランプ流に白人の支持を固めるという戦略も短期的には有効なことが明らかになった。トランプ政権の下で、共和党はマイノリティをあたかも切り捨てるような立場をとり始めている。これは、長期的には共和党に不利に働く可能性が高いだろう。 それに加えて、トランプ政権下の共和党に顕著になっているのは、農家からの共和党支持率が低下していることである。農家は伝統的に共和党の強力な支持母体である。トランプ大統領はラストベルトの白人労働者階級の支持獲得を目指し、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱などを決定した。その結果、日本などへの農作物の売り込みを期待していた農家は、むしろオーストラリアなどから日本向けの農作物輸出が増大する可能性が出てきたため、大きな打撃を受けている。もっとも、農家が共和党を捨てて民主党に投票するようになる事態は少なくとも短期的には考えられないが、共和党に対する投票率などが下がるのは好ましくない事態だろう。 このような状況の中で、2020年大統領選挙までに共和党は党の在り方を模索することになる。もしトランプ弾劾の動きが出てきた場合、トランプを支え続けるのか、大きな決断を迫られる。弾劾の動きが出てくると、トランプが大統領職を自ら投げ出す可能性もあるかもしれないが、そうなるとトランプは民主党のみならず共和党をも強く批判するだろう。仮にそうなった場合、共和党は「トランプ的なもの」と距離を置くのか、それともトランプ路線を一定程度は継承するのか、難しい選択になるだろう。