「闇バイトの温床」「派遣切りの二の舞」医療や福祉にも進出…急拡大スキマバイトがもたらす「悲惨な未来」
医療や介護にも進出していく
その「手軽さ」ゆえに、さまざまな問題も起き始めている。不利益を被るのは決して労働者側だけではない。 9月にはさいたま市が2024年4月から実施している“放課後子ども居場所事業”のなかで、スポットワークアプリで学童保育の職員を募集していたと判明し、物議を醸した。日給は4700円で、仕事内容は「子どもの安全を見守る」と記載されていた。 “放課後児童支援員”であれば、保育士や社会福祉士、教員免許などの資格が必要だが、さいたま市によると募集されていたのは“補助員”だったため、資格の保有については問わなかったという。履歴書の提出や面接もないまま採用された人間が、子供たちとかかわるという非常に危険な状況にあったのだ。木下教授は警鐘を鳴らす。 「すでに医療や介護、障害支援や保育といったエッセンシャルワークの分野にもスポットワークが進出してきています。公的サービスの質が下がり、利用者側の権利が毀損されることが考えられます」
「闇バイト」の温床に
現在、もっとも問題視されているのは「闇バイト問題」であろう。 スポットワークのアプリ上で、闇バイトとの関連が疑われる不審な求人が公開されるなど、サービスが犯罪に悪用される事例が後を絶たない。 11月上旬には、「タイミー」のアプリ上で、「夜道で猫を探すバイト」という一風変わった求人が公開され話題を呼んだ。業務内容は「指定された道を通り、猫がいたところを地図上で印をつけるだけ」。深夜帯とはいえわずか3時間の作業で報酬は7500円と高待遇だ。そのほかにも、一見合法的に見える求人のかたちをとり、強盗や特殊詐欺の実行役などを募るケースも確認されている。 事業者側も審査体制を強化しているものの、次々と新たな手口が生み出されており、対策が追いついていないのが実情だ。
好景気の時期はいいが…
さまざまな事情があり、フルタイムで働くことが難しい労働者にとって、スキマ時間に単発で働けるスポットワークの気軽さは大きなメリットだ。だが、長期的な視点でのデメリットは無視できるものではないと、木下教授が説明する。 「スポットワークがより普及していけば、日雇いの紹介で生計を立てていかざるを得ない労働者が増える。そうなれば、『日雇いの仕事がいくらでもある』がために、継続的な貧困状態にあるにもかかわらず、生活保護を受けにくくなる可能性も高くなると考えられます。現在の受給基準が変わっていくことも十分想定されることです。いよいよセーフティーネットが機能しなくなる。 現行の日本の社会保障システムは、正規雇用の職に就き、継続的に安定して働いていることが前提のうえで設計されています。その仕組みを変えないまま、スポットワークが普及していくことに強い懸念を覚えます。 今は人手不足で求人が溢れかえっているので不安視されないでしょう。ですが、問題は不況が来たときです。リーマン・ショック以降の派遣切りと同じように、必ず生活が成り立たなくなる方が出てくる。国は新しい働き方だと推進していますが、現在の派遣問題と全く同じ道をたどっているように思うのです」 ………… 【もっと読む】まさか82歳の父が「闇バイト」に手を出していた…!“怪しい仕事”に高齢者が応募してしまう「切実な理由」
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