「性教育はエロいものだと思ってた」──高校生が自分たちで考える「人生の役に立つ授業」【#性教育の現場から】
「無知がいじめや差別につながる」
「性と生」の授業に影響を受けて、学校の規定を変える提案をした生徒がいる。今年3月に卒業し、大学で経済学を学ぶ麥倉達摩(むぎくら・たつま)さんは、3年生のときに「制服の男女別の規定をなくそう」と考えた。「多様性」について学んだことがきっかけだった。 これまでは女子はスカートでもスラックスでもよく、靴下は単色で無地のものと決められていた。男子はスカートはダメだがその一方、靴下に規定はなかった。女子はネクタイでもリボンでもいいのに、男子はリボンはつけられない。これらの規定をなくし自由にするという提案だった。 「性的マイノリティでスカートをはきたくてもはけない子がいるかもしれないし、男女で着られるものが違うのもおかしいと思ったんです」 いくつかのプロセスを経て、この要求は保護者・教員・生徒からなる三者協議会で認められ、今は自由に制服を選べる。これと同時に、高価で重いコートの代わりにトレーナーやパーカーの着用許可も求めた。それも認められ、今では多くの後輩たちが安価で軽くて暖かい上着を着用している。
「提案によって後輩の学校生活が便利になっていることがうれしいです。まだ性的マイノリティでスカートをはきたい子が、実際に着用している例があるわけではありません。でもそうなっても変な目で見られることは、『性と生』の授業があるので防げると思います」 麥倉さん自身、小・中学校ではふざけて誰かを「菌扱い」したりすることを悪いと思っていなかった。しかし、「性と生」の授業を経てやってはいけないことだとわかった。街で出会う障がいをもつ人たちのことも気遣うようになったという。 「無知であることが、いじめや差別につながると思います。高校の授業で多様性について学べてよかった」
よりよい行動選択を可能にする力をつける
同じく今年3月の卒業生、佐藤アキラさん(仮名)も高校時代、「多様性」に興味をもった。ただし直接のきっかけは「性と生」の授業ではなく、高校2年生のときに偶然ネットで見た動画だった。戸籍上女性だった人が性別適合手術を経て男性となり生活していくという内容だ。そのとき「性と生」の授業をもっとちゃんと聞いておけばよかったと少し後悔したという。 「高1当時は、妊娠や月経、勃起や射精などについてストレートに言われることに戸惑いがあり、授業を毛嫌いしていました」 卒業後は体育教師を目指して、多様性やジェンダー論も学べる大学へ進学した。 「『性と生』も担当している担任に悩みごとを相談したことで、教師という職業に興味をもちました。とくに性の多様性やジェンダーについては、思春期にいちばん悩むところだと思います。わからないと不安だし、病気じゃないかと思う人もいると思う。そういう相談も受けられる、生徒と信頼関係を築ける教師になりたいと思います」