「性教育はエロいものだと思ってた」──高校生が自分たちで考える「人生の役に立つ授業」【#性教育の現場から】
授業中、生徒の一人が「ジェンダーがどうのって(よくこの授業で)言うけど、アンケートの最初で男女を選択させているよね」と言う声が聞こえてきた。 「性と生」は独自の教科であるため、教科書はない。テキストとなる「学習資料集」は担当教諭らによってつくられ、毎年改訂されている。一年の最初に学ぶのは、「性の多様性」だ。6月のこの時期にはすでに、性は多様で一人ひとり違い、ジェンダーは「男らしさ」「女らしさ」というような性別役割のこと、と学んでいる。それを踏まえて先ほどの生徒はアンケートを男女別で取ることに疑問を呈したのだ。 「学んだことが身についていますね。たしかに、このアンケートはジェンダーを明らかにする必要があるのか、という問いは大切です。その生徒は、教員の言うことも『本当にそうかな?』と思って聞いている。それはとても大事なことです」(水野先生)
「私たちを苦しめた」ある卒業生の言葉
「性と生」の授業が始まる以前の同校の姿は、現在とはかなり違っていた。先生は、生徒がコンドームを持っていると「不純異性交遊」をしていると決めつけた。そして親も呼び出し、付き合いをやめるように指導していた。そういう指導をすることが生徒の生活改善につながるという考え方があった。 水野先生もそういう指導をしていた。しかし1980年代の終わりごろ、考えを大きく変える出来事があった。 「助産師になった卒業生に講演をしてもらう機会がありました。その慰労会で、彼女は『先生たちの指導は間違っていて、私たちを苦しめたと思います』と言いました。交際を禁止するだけで性について必要な知識を与えられなかったから、相談をすることもできなかった、と。私たちは非常に衝撃を受けました」 さらにショックを受けたことがある、と水野先生は言う。同僚の中には、そのような生活指導を「間違っていると思うから」と、行っていなかった先生もいたのだ。 「性について間違った指導をすることは生徒の人権を侵害することだ、とその先生たちは気づいていたんです。自分が無知だからこうなった、ちゃんと性の学びをしないといけないと思いました」