多くの人がじつは知らない、日本経済はなぜここまで低迷したのか「意外な原因」
経済低迷の主因は労働投入量の減少
続いて、供給面から日本経済の低い成長率の要因を探っていこう。 実質GDPは、一国全体の労働投入量である総労働時間数に、1時間当たりの実質労働生産性を乗じて算出することができる。この計算式で考えれば、経済規模を拡大させるために必要なことは、労働投入量(総労働時間数)を増やすか、1時間当たりの労働生産性を高めるかという2点に集約することができる。このような関係性で経済の動向を考えたとき、日本の低い経済成長率をどう解釈できるだろうか。 先のグラフでは主要国の実質GDP成長率のほか、総労働時間数と時間当たり実質労働生産性の成長率も掲載している。 日本の労働者の1時間当たりの労働生産性は、2000年から2010年の間は年率1.1%の伸び、直近の2010年から2021年までの間は年率で0.9%の伸びとなっている。近年の実質労働生産性上昇率はドイツが1.1%、米国が1.0%で日本はそれに次ぐ水準である。 この結果を見ると、日本の労働生産性は主要先進国と比較してもわりと堅調に上昇しており、日本経済の低迷の元凶が必ずしも労働生産性の低迷にあるわけではないことがわかる。 なお、これらの数字はいずれも1時間当たりでみていることは留意しておきたい。「一人当たり」ではなく「1時間当たり」としているのは、一人当たりでは働く時間が少ない高齢者の増加などによる影響をかなり受けてしまうため、本来の生産性の動向をみるのであればマンアワー当たりの生産性をみるほうがよいと考えるからである。 日本の経済成長率が他国と比べて低い原因について、労働生産性の低迷が原因ではないということは、裏を返せばその主因には総労働時間数の減少があるということが理解できる。他国と比較すればこの10年あまりで労働力が減少したのは日本だけであり、労働投入量はこの10年ほどで0.3%減と他国と大きく乖離(かい り)した数値となっている。 労働投入量が減少している背景には、先述のとおり人口動態の影響がある。近年は女性や高齢者の労働参加が急速に進んでおり、過去と比べればこの10年間は労働力の減少を比較的抑えてきた方だと言える。 しかし、今後は就業率の上昇だけでは労働力の減少を十分に補うことは難しくなっていくだろう。他国は人口が増加しているなかで労働投入量が増えているのに対して、日本は労働力人口の減少や高齢化などに伴う労働時間の短時間化などによって、総労働時間数は持続的に減少していくと予想される。 将来を展望すると、労働力の減少速度はさらに加速していくことは間違いない。そう考えるのであれば、これからの日本の経済成長率のさらなる鈍化は、もはや既定路線と考えた方がいいだろう。 つづく「これから日本は「経済成長」できるのか…移民を受け入れたドイツと消極的な日本の「大きな差」」では、先進諸国で低下する出生率とそれを補う移民について掘り下げていく。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)