「俺らもプロに行けるかも…感覚がバグる」ドラフト“史上最多”6人指名の富士大ってどんな所? 岩手の奥地「ポツンと一軒大学」を訪ねてみた!
何もないからこそ…「みんな覚悟を持って来ている」
だが安田にしてみれば、こういった周辺環境もひとつのアドバンテージなのだという。 「何もないですからね。逆に言えば、みんなそれだけの覚悟を持って来ている。だからこそ伸びたと思っているので。その意思の強さもかなり大事なところです。向き不向きはあるけど、『富士大じゃなければダメだった』という学生も間違いなくいると思います」 無理強いさせるのではなく、リクルートの段階で「富士大に合った学生」を見極める。それが安田のポリシーだ。 「この環境にあまりストレスを感じない子に入ってきてほしいんですよ。ストレスを抱えながら野球をやっても絶対に伸びない。面談の段階で、『東京の大学を考えています』という子には、率直に『それならやめたほうがいいかもしれない』と伝えます。 申し訳ないけど、うちはそういうところじゃない。4年間遊ぶことなんて一切考えずに、『野球で飯を食う』という覚悟を決めて、退路を断ってプロを目指すところ。変に聞こえがいいことを言ってミスマッチが起きるのが一番イヤだから、高校生には『こういうところだよ』と現実を話すようにしています」
4年間で「他大学の選手と差をつける」ためには?
安田は育成の要点として「遠回りをしないこと」の重要さを強調する。根底には、「六大学や東都と同じことをしていたら、絶対に追いつけない」という意識がある。 「とにかく無駄なことをしない。うちは17時半から練習なので、平日だと3時間しかないんですよ。それ以外にもウェイトのメニューを組んだりはしているんですが、練習時間がすごく長いわけではない。スカウトの評価が決まるのは大抵4年の春です。ドラフトまでの実質3年で使える時間は決まっていて、それまでに他の大学とは違うアプローチで抜くしかない。フィジカルトレーニングを中心にしているのは、そのためのひとつの方法です」 もちろん、他の有力大学もフィジカルの強化をおろそかにしているわけではないだろう。富士大では肉体強化のために的確な食事を指導する管理栄養士と契約を結び、ウェイトの重量をはじめ日々さまざまなデータを測定しているが、「他の大学でも普通にやっていることでしょうね」と安田が認めたように、それ自体は決して珍しいアプローチではない。では、どこで差が生まれるのか。 答えはじつにシンプルだった。そして、言葉を選ばずに言えば“属人的”ですらあった。 「監督である僕自身が、いろんなデータを見ながら指導ができる、というのはあるかもしれません。監督がそこまでやるというのは、他所ではあまり聞かないので」 安田はこんな具体例をあげる。 「たとえば体重90kgの選手の場合、体作りのために必要な一日分のタンパク質量はだいたい180gです。普通の食事だと90gしか摂れないので、残りの90gはプロテインやサラダチキンで補う。でも、摂取しているはずなのに体重やウェイトの重量が上がっていないケースがある。その場合は直接聞き取りをして、漏れがないかチェックします。 食事や睡眠時間は足りているか、プロテインは日本製か海外製か、ホエイかカゼインか、タイミングは適切か、タンパク質の含有率は何%のものか、ウェイトでしっかり追い込めているか……。そうすると、大抵どこか漏れているんですよ。これはあくまでも一例ですけど、監督が数字を見て直接指導できる、無駄を減らせるというのはひとつのアドバンテージだと思います」
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