「俺らもプロに行けるかも…感覚がバグる」ドラフト“史上最多”6人指名の富士大ってどんな所? 岩手の奥地「ポツンと一軒大学」を訪ねてみた!
今年も大きな盛り上がりを見せたプロ野球のドラフト会議。中でも衝撃的だったのが、1つの大学から“史上最多”となる6人もの選手が指名を受けた富士大の存在だ。大都市とは異なる北国・岩手の地で、一体どんな育成が行われているのだろうか? 《NumberWebルポルタージュ全3回の2回目/つづきを読む》 【写真】「ホ、ホントに何もない…!」ドラフトで6人指名の“虎の穴”岩手の奥地・富士大に潜入…「50kg超!? こんなダンベル見たことない」39歳若手監督のフィジカル重視“超合理的トレーニング”も現地写真で見る(50枚超) 「冬場に外で練習できないほうが、じつは有利なんです」 オリックス1位の麦谷祐介(外野手)、広島2位の佐藤柳之介(投手)をはじめ、ドラフト会議で史上最多の6選手を指名へと導いた富士大学野球部監督の安田慎太郎は、こともなげにそう言った。
一年中、屋外で練習できる“デメリット”
発言の意図を測りかねていると、手品の種明かしをするように、安田は淡々とした口ぶりでその理由を説明した。 「フィジカルを重視する僕のやり方と、この地域の条件がマッチしているんだと思います。もし一年中屋外で練習ができてしまったら、やっぱりみんな外でやりたい。バッティングもノックも楽しいですから。でもそれって、見方を変えればトレーニングというよりも“野球をしている”だけ。 寒いなかでやっても効率は落ちるし、雪かきなんてしたら個々人の練習時間もかぎられてしまう。でも、最初から外が使えないとわかっていて、口酸っぱくフィジカル作りの大切さを伝えていれば、練習=ウェイトだと意識が変わっていくんです」 とにかく徹底的にフィジカルを強化する――。その意識を植え付けるために、安田は屋内練習場の入口付近にトレーニング器具を揃え、「選手たちが最初に目にするのがウェイトの器具」という環境を整えた。ボディビルダーしか使わないような、50kgのダンベルまで用意するほどの徹底ぶりだ。 「実際に使わなくても、日常的に目にしていれば『やれるかもしれない』と脳が錯覚する。他の練習にしてもそうです。プロに行くために、『無理だ』というマインドを『できる』に変える。選手たちのリミッターを外す。でも、決して嘘をついているわけじゃないんですよ。少なくとも、僕は本気で行けると思って声をかけていますから」 ふと、大学からほど近い「さかえや」でオススメのメニューを教えてくれた野球部員の言葉が頭をよぎる。ドラフトで6人もの先輩が指名されたことについて尋ねると、まさに「感覚がバグってきますよね。もしかしたら、俺らも行けるんじゃないかって……」と話していた。 安田の言葉を借りると、雪でグラウンドを使えないことは「定数」だという。動かしようのない環境的事実を無理に動かそうとしない。あくまでも重要なのは、工夫次第で動かすことができる「変数」の部分なのだ、と。 実際に現地を訪れたことのない人にとって、富士大学がどんな環境なのかをイメージするのは難しいだろう。取材の前に、学生たちがどんな環境で生活しているのかを探るべく周辺を散策してみた。 民家と農地、そして広大な敷地を誇る「岩手県立農業ふれあい公園」のほかに、めぼしい施設は見当たらない。近隣には先述の「さかえや」やカフェがあるが、その他の店は少し離れた国道4号線のロードサイドに点在する程度だった。 最寄りの花巻駅、北上駅はバスでそれぞれ15分、20分の距離にある。「ポツンと一軒大学」というのは失礼な表現かもしれないが、少なくとも都内の大学のように、周辺の至るところに娯楽施設がある環境とは明らかに異なる。 取材は11月だったが、12月中旬から2月までは本格的な積雪のシーズンになり、あたり一面が雪に覆われる。遊びたい盛りの若者がこの大学で寮生活を送るには相当な覚悟が必要なのではないか、というのが率直な感想だ。
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