マスコミは「本離れ」と叫ぶが…じつは今の小学生が一か月に読む本の「平均冊数」が「凄い数字」になっていた
「本離れ」と騒ぐ前に、読書調査の報道を読む際の注意を知るべき
え、でもいつも「本が売れなくなって書店が減っている」とか「本離れ」とか報道されているじゃないか、と思う人もいるだろう。 新刊書店数はたしかに減少して全国1万店を切ったと見られている(店売りせずに教科書など外商しかしていない店を含めるかどうかなど、店舗数のカウントのしかたにもよるものの)。しかし本屋がなくなったら子どもが本に触れる機会がなくなるわけではない。小中高特別支援学校は学校図書館法によって図書館の設置義務があり、その数は小学校約2万、中学校約1万、高校約5000、特別支援学校約1000と合計約3.6万の学校図書館がある。 しかも文科省は1997年の学校図書館法改正で司書教諭(司書資格を持った教員)の原則配置、2014年改正で学校司書(司書専業)の配置を促し、学習指導要領でも各所で図書館活用を推進、等々と、1990年代までとは考えられないくらい実際に学校図書館は授業も含めて使われるようになっている。 「買う」ほうに目を向けても出版科学研究所「出版指標年報」を見ても児童書市場は少子化にもかかわらずおおむね堅調に推移している(もちろんコロナ特需で跳ねた2020~2022年と比べれば2023年は下がったが)。 大人の読書や購買と、子ども読書や購買は環境からして違うので同一視してはいけない。
「子どもの国語力低下」はウソ?正しいデータ解釈
子どもの「本離れ」「国語力低下」に関する報道はほとんどが結論ありきのデタラメである。 多くの記者やメディアが「わかりやすさ」を重視して、読みとばしてはいけない調査設計上の「ただし書き」(注意書き)を無視して記事を作成している たとえばしばしば「子どもの本離れ」の根拠として引かれる調査に学研教育総合研究所「小学生白書」「中学生白書」がある。この調査では1989年には小学生の平均読書冊数は月に平均9.1冊、2023年には4.0冊になっている。一見「本離れ」しているように見える。 ところがこの調査では89年には書籍、マンガ、雑誌の区別がなく、一方で2023年は「紙の書籍」に限定している。ついでに言えば89年は学研の雑誌「学習」「科学」の購読者――つまりそもそも子どもか親が出版物を読む習慣がある家庭に限定されている――を対象にしていたが、2023年にはインターネット調査会社がウェブ上でモニターを集めて調査したものであり、母集団・調査方法も異なるため、単純に比較できない。 また、今年は「全国学力テストの国語の平均点が過去最低」「子どもの国語力低下」などと大々的に報じられたが、これにも問題がある。文科省と国立教育政策研究所が公表した分析資料「令和6年度全国学力・学習状況調査の結果(概要)」を読んでも 「各年度の問題の難易度を厳密に調整する設計とはしておらず、年度によって出題内容も異なることから、過年度の結果と単純に比較することは適当ではない」 と太字と傍線付きで注意書きがなされている。それでも無視されて単純に「平均点が過去最低」とか言っているのである。学テが学術的に信頼に足る設計になっていない点は、学力調査の研究者によって開始当初からボコボコに批判されてきた(くわしくは川口俊明『全国学力テストはなぜ失敗したのか』を参照)。 そこで経年で比較できるように設計した「経年変化分析調査」も平成25年度から3年に1度実施されている。したがって過去との比較で報道したいならこちらを参照するべきなのだが、国立教育政策が発表している分析結果を読むと、国語に関しては平成28年度には「前回調査時と同様の学力水準」、令和3年度は「児童生徒の学力の低下や向上といった変化は認められなかった」――つまり小中学生の国語力は変わっていない。 子どもの読書離れも国語力・読解力低下も事実ではない。 調査の注意書きを無視するような国語力・読解力の低い記事を真に受けてはいけないのである。