サッカー五輪・大岩剛監督「アジア対策ではなく、どの相手にも対応できる力を」
4位に終わった東京大会から3年。今夏、パリで開催される五輪への出場権を争うAFC U23アジアカップに挑んでいるサッカーU-23日本代表。コロナ禍により、2021年開催予定だったU-20 FIFAワールドカップが中止となり、この世代は国際経験が他の世代より少ない。そのハンディキャップを補おうと、数多くの海外遠征を重ね、スペインをはじめとした強豪国と対戦してきた。そんなチームを率いる大岩剛監督へのインタビュー最終回は、代表チームを形作るうえでの哲学について訊いた。 【写真】パリ五輪を目指すU-21日本代表監督、大岩剛
日本代表経由パリ五輪、A代表でもできるレベルを求めている
――クラブチームと比べて、代表チームの監督は、多くの選手の中から選ぶことができるというイメージがありますが。 「A代表ならそういう考え方もできるでしょうが、U-23代表チームには年齢制限があります。上限が限られている。確かに下には制限がありませんが、フィジカル面でのギャップを考えるとある程度限られてきます。そういう意味では年齢の幅が決まってくる。クラブなら、大ベテランからルーキーまで、さまざまな年齢の選手がいて、キャラクターが豊富。そこに違いがありますね」 ――代表チームは活動期間が限られています。クラブでの指揮とは違うものですか? 「クラブは毎日活動できるので、さまざまなことを積み上げられます。でも、代表の場合、インターナショナルマッチデー(以下IMD/FIFAが定める代表が活動できる期間。代表チームの拘束が認められる。この期間以外の場合、所属クラブが代表での活動を拒否できる)に応じた期間しか活動できませんから。試合も2試合程度に限られてしまいます」 ――それでもチームを作り上げるという作業はクラブも代表も変わらない。メッセージなどの濃度を濃くする必要がありますね。 「だからこそ、名古屋グランパスで接した(アーセン・)ベンゲルが非常に参考になるんです。彼は本当にシンプルなことしか、選手に要求しなかった。こだわることもシンプル。シンプルだからこそ共有しやすい。そういう環境作りに注力しています。現代サッカーの戦術は、とても複雑化しています。選手に求めるものも当然増えていく。すべてを短期間で落とし込むことは難しい」 ――数多くの戦術があっても実行できない、中途半端なものでは武器にもならない。 「だから、『俺たちはこれをやろう』というものを明確に、シンプルにして、それにこだわるというか、自信を持つというのは、ベンゲルの姿が参考になります。ミーティングで何を伝えるかというのも、すごくそぎ落とし、段階を踏みながら、浸透させていきました」 ――活動のほとんどをヨーロッパなどで行い、強豪国と対戦しました。 「オランダ、スペイン、ドイツ、ベルギー……と戦い、その1戦1戦でもっと高い強度が必要だとか、選手自身がさまざまなことを体感したと思います。だからこそ、所属クラブに戻ってもそれを意識した結果、成長しているんだと思います。『自分も海外でプレーしなくちゃ』と考える選手もいるだろうし、それができなくても、皆がもがいている。そういう変化をこの2年で感じました。一度いっしょにやったあと、大きく変化する成長する選手もいます。所属クラブで何かを得たんでしょうね。自信が漲り、眼の色が変わったなと驚くことは少なくありません」 ――U-23代表が刺激を与える場所になったんですね。 「僕たちのチームは、この年代のトップという位置づけです。みんなが目指している場所。だから、基準はハイレベルであるべきだと思っています。僕はよく『A 代表経由パリ五輪』と言っています。それはA代表でもやれるレベルを僕たちは求めているというメッセージです。そういう高い基準を常に持つべきだと考えています」