“斜面の魔術師”手掛けた「集合住宅」まったく衰えない人気。広々とした間取りと、自然豊かな部屋の内部
「父はうまく環境を作れると思ったんでしょうね。蓋を開けてみれば倍率は約7倍、1日で完売したそうです。見に来た人は気に入ってすぐに決め、抽選になったと聞いています」 ■斜面住宅にはさまざまな種類がある 斜面住宅と一言で言っても、その形はさまざま。 斜面に沿うように建てた住宅もあれば、斜面をカットして擁壁(ようへき:土砂などが崩れ落ちるのを防ぐための壁)を作り、その上に建てる手法もある。土地には特徴があり、特に斜面は個性が強いため、設計の仕方はそれぞれ変わる。
ヒルサイド久末とゆりが丘ヴィレッジに続いて、1987年に「ペガサスマンション大倉山」(横浜市港北区)が竣工。 さらに、1991年には東京・八王子に7戸×6棟のひな壇上の「テラス42(現:ヒルサイドテラス平山城址)が完成した。ほかの斜面住宅とは異なる形状だが、横浜市保土ケ谷の「HOMES20」も斜面地に建てられている。 斜面に段状に建つ斜面住宅に共通しているのは、先にも触れたようにエレベーターやエントランス、片廊下を設けないなど、管理費を抑える工夫がされていることだ。住戸も広くバルコニーやルーフテラスもあり、自然に囲まれている。共治さんが斜面を生かして手がけた建物の数は、15にものぼる。
ただ、ここで強調しておきたいのは、共治さんは斜面に住宅を作りたかったわけではないということだ。可能性にあふれた集合住宅を実現できるのが、斜面だったのだ。 日本の戸建ては区分所有者がいる。庭や眺望を求めても、限られた環境で実現するのは難しい。そんな住宅環境を工夫次第で変えられるのが、斜面住宅だと共治さんは考えていた。 また、「鳥が見てもきれいな住宅を作りたい」とも語っていたという。斜面はもともと里山であり、里山に埋もれるような集合住宅にしたかったそうだ。住宅を建てて終わりではなく、「景観を戻す」という考えのもと、建物と周辺環境を含めて設計を進めていった。