“斜面の魔術師”手掛けた「集合住宅」まったく衰えない人気。広々とした間取りと、自然豊かな部屋の内部
息子の敦史さんも建築家で、株式会社サムデザインの代表を務めている。共治さんの設計手法も踏襲し、住宅や別荘、福祉施設や保育園などの設計に携わってきた。ちなみに事務所は、共治さんが斜面地に設計した「HOMES20」にある。 なぜ、斜面の魔術師・井出共治さんは、斜面に集合住宅をつくるようになったのか。 ■斜面住宅を手がけるようになった理由 敦史さんは「父はよく『戸建てを超える集合住宅を作りたい』と言っていました。広くていい環境に安く住んでもらいたい、という考えのもと、斜面地の住宅を設計していたと聞いています」と語る。
共治さんが斜面の開発に力を入れたのは1980年代半ばごろ。マンションが大量に建てられ、団塊の世代が購入し始めたころだ。 都心の好立地や駅近の敷地は大手デベロッパーが開発し、共治さんのもとに仕事はまわってこない。 ならば自ら開拓しようと、親しい不動産屋を訪ねて土地を探し始めた。そこで目をつけたのが「斜面」だった。 「なぜ斜面かといえば、平坦な土地よりも価格が非常に安いから。建物は南向きがいいとされているため、北向きの斜面はさらに安価です。方位や場所、景色のよさなどから、“料理をするとおいしくなる斜面”を探したそうです」
北向きの斜面も仕掛けによってはいい場所になる。やりようによってはいい物件が建てられる場所を求め、都市開発における将来的な交通網の発展まで視野に入れて調査した。 「土地を見極め、さらに絵も作っていました。設計して模型を作り、構造計算も行う。収支計算までして、利益が出る計画だと判断できたら、デベロッパーのもとへ『やりませんか』、と持って行ったようです」 ヒルサイド久末もまさにこの方法だ。 川崎市高津区久末にある土地は、駅から離れ、スーパーも近くになく、とても不便な場所だった。高低差が約25mという急斜面で、粗大ゴミが捨てられていたような場所を、多くのデベロッパーは売れない土地と判断していたのだ。