作家・柚木麻子さん「『悩み』に社会問題を解決するヒントが」“自分だけ”“甘えでは”と苦しむべきでない理由
さまざまな境遇にある女性の生き方や思いをていねいにすくい上げ、肯定するその姿勢に人気が集まっている作家・柚木麻子さん。母校、恵泉女学園中学・高校の創立者・河井道の人生を描いた『らんたん』(小学館)、女性記者が収監された容疑者と面会を重ね、人生が変わっていく『BUTTER』(新潮文庫)など、女性が主役の著書を多数執筆されています。 近年では、長くフェミニズムについて考え、表現してきた作家としてのスタンスについても評価が高まり、海外からの取材も続々と舞い込んでいます。柚木さんに「悩み」について伺いました。
悩んでいる自分を受け入れる
精力的に活躍の幅を広げ、まぶしいほどのエネルギーに満ちているように感じられる柚木さんですが、「私、もともと体力がないですし、集中力もない。人と比べてできないことを数えて落ち込んだりも、もちろんしますよ」と意外な言葉が。ただ、それを受け入れないと何も始まらない、と続けます。「悩み」のとらえ方も同じのようで「自分の抱えている問題は世界の中心だってことをまず認めなくては。私と一緒に『大事件だ!』って騒ぎましょうよ」と声に力を込めます。
最初に悩みを訴えた、勇気ある“ファーストペンギン”に学ぶこと
「こんな悩みをもつのは自分だけ。こんな悩みをもつのは自分に甘えがあるから」。落ち込むと、悩みをもつこと自体に後ろめたい気持ちが芽生えてしまうもの。これがより苦しみを深める一因にもなります。「そこをまず断ち切ってほしい」と柚木さん。「『私の悩みは取るに足らないこと』。そんなこと一切思わなくていいんです。悩みには社会を変えるヒントがあるかもしれない」 「1989年に日本初のセクハラ裁判が行われましたが、その時代、男の人に体を触られただけで訴えるなんて、やりすぎだと非難される社会でした。もっとさかのぼると女性に教育を受ける権利が欲しいなんて訴えると、鼻で笑われていた時代だってあった。でも今それってふつうで当たり前の権利じゃないですか。 社会問題が前進するときって、一番最初に勇気を出して声を上げた人の存在がかならずある。そういった誰もが忌避してきた行動を最初にやってのける人を“ファーストペンギン”と称したりしますよね。そんなふうに考えると、一人ひとりの悩みにも社会の問題を解決できるようなヒントが隠されていて、何か大きな変化をもたらすチャンスが潜んでいるかもしれないんですよ。めぐりめぐって我儘は社会貢献になり得る。人から馬鹿にされるようなことだって時が経てば一般常識に、なんてことが山のように起こってきたのですから」