作家・柚木麻子さん「『悩み』に社会問題を解決するヒントが」“自分だけ”“甘えでは”と苦しむべきでない理由
専業主婦か女傑か、その二択しかなかった時代を経て
最近、女性作家についての歴史を調べているという柚木さん。昭和に描かれた当時としてはすすんだジェンダー観の小説を読んでいると、夢を実現している女性の登場人物が「“自分たちがそれほど強くない”というのは端から考えられていない設定で、考えてはいけないものだとされている」と感じるのだそう。とにかく精神的にも体力的にもタフであらねばならない、と。 「自分自身のセルフケアを大切にするとか、自分のスペックに真っすぐに向き合おうという視点って、ごく最近生まれたものですよね。昔は専業主婦か女傑になるか、その二択しかなくて、第四、第五の道みたいなものがあんまりなくて。 どちらでもない、仕事はやりたいけどパーフェクトでなくていい、という女性の姿が小説で可視化され、メジャーになったのって角田光代さん、山本文緒さん、唯川恵さん、ともに少女小説出身のお三方が活躍し始めたくらいからではないかと。日本のエンターテインメントでは表現されてこなかった。そう思うといろいろと納得がいくんです」
それぞれのスペックに合わせて生きていい
悩みを解決するためには、ある程度の体力も必要。ご自身、もともと肺が弱く、虚弱体質だという柚木さん。努力ではどうにもならない体質があることを、身に染みて分かっているからこそ、自身の体としっかり向き合うことも大事だと話します。 「体力がない者なりの闘い方として、かかりつけの病院を一つもつこと。タンパク質をとって、一日20分くらいでも身体を動かして筋肉量を減らさないこと。私もジム通いを始めて少しだけ体力がついたんです。そうすると、ちょっと出かけてみようかな、という気持ちも湧くし、億劫だったことに前向きになれるから、多少は悩みの解決につながりますね」 ただし、「超人レベルの体力をめざすのも違う」ときっぱり。「俳優さんや起業家の方など、メディアに出てくる人たちはとにかく信じられない体力の持ち主ばかり。その分果てしない努力も重ねている。つい“私ってこの人たちのように頑張れていなくて、甘えているんじゃないかしら”なんて思っちゃう。まず、比べてはいけません。 もちろん体力があれば全方位的に頑張ったっていい、今はそれぞれのスペックに合わせて自由に生きることができる時代。私はだらだら過ごす女優の姿とか、ドラマでたくさん見たいなあってよく思います。何かしら自身を肯定してくれたり、こういう生き方でいいんだって思える作品に出合えると、救われますよね」 ゆずきあさこ●1981年東京都生まれ。2008年、短編『フォーゲットミー、ノットブルー』 で第88回オール讀物新人賞受賞、同作を含む連作短篇集『終点のあの子』(文春文庫)でデビュー。2015年、『ナイルパーチの女子会』(文春文庫)で第28回山本周五郎賞受賞。『BUTTER』(新潮文庫)『らんたん』(小学館) 『ついでにジェントルメン』(文藝春秋)など話題作を次々に執筆。『ランチのアッコちゃん』(双葉社)『伊藤くん A to E』(幻冬舎)など映像化された作品も多数。