牛丼並盛を注文したのに「大盛」が出てきた! ラッキー? そのまま食べていいの?
ここは関西地方にある学生街の交差点。牛丼チェーンがひしめき合い、昼夜問わず、牛丼をかきこむ若者たちの姿を見かける。 そんな繁盛店の一角で、男子学生の彰平(仮名)が「並盛」を注文したところ、店員に出された牛丼は「大盛」だったということがあった。 体育会系だけあって、たしかに「大盛」を注文しそうな面構えではあるが、「その日はたしかに並盛にした」と話す。だが、全部食べ終えてから「間違いに気付いた」という。
●まるで「食い逃げ犯」のような扱いをされた
その会計で、店員は「食べ終えてから言うのはおかしい」「先に言ってもらわなければ困る」と突き放し、さらに彰平を「食い逃げ犯」のような扱いまでしてきた。 そんな態度に腹を立てた彰平は「お前が悪い」とまくしたて、店内は緊迫した雰囲気に包まれた。 結局、店側が折れたので、代金は「並盛」として処理されたが、このような場合、法的にどう考えられるのだろうか。櫻井俊宏弁護士に聞いた。
●大盛が出てきた時点で気づいていたケース
――並盛を注文したのに「大盛」が提供された場合、そのまま食べてよいのでしょうか? 大盛が提供された時点で、客がそのことに気付いたとします。 もし、それでも食べてしまった場合は、大盛の牛丼提供に関する店側の「申込み」に対して、客側が食べたことで黙示に「承諾」して、両者の意思表示が一致したことになり、民事上、「契約」が成立することになります。 つまり、法律的には、大盛契約が成立したことになり、客は、大盛の代金を支払わなくてはなりません。 さらに客が、並盛の代金しか支払わず、店の外まで出た場合には、大盛であったことを指摘する告知義務に違反したものとして、刑事上の詐欺罪が成立するおそれがあります。
●食べたあとに「大盛」だと気付いたケース
――もし大盛に気づかず食べて、あとからわかった場合でも、大盛の代金を払わないといけないのでしょうか? この場合には、先ほどとは違い、客は、食べたときに大盛である意識はないので、両者の意思表示は大盛の牛丼については一致せず、当初、客が申し込んだ並盛の契約が成立します。 店側としては、出した牛丼が大盛であったことを立証できれば、大盛と並盛の差の価値について不当利得であるとして、民事上、返還を請求することが考えられますが、些細な問題であり、現実的には難しいでしょう。 また、大盛と並盛の差分について、気付いた時点では、牛丼は店の占有下になく、詐欺罪は成立しないものの、遺失物横領罪が成立することは考えられます。 ただし、いずれも現実的には、これらの法律通りにはなりにくく、店側が損害を回復するのは難しく、その請求をする意味も見いだしにくいです。 無用なトラブルを避けるために、客側は、注文した量と違う場合には、店に告知するのが正しいあり方といえるでしょう。「こちらが間違えたので」と言ってそのまま提供してくれる店も多いと思います。 【取材協力弁護士】 櫻井 俊宏(さくらい としひろ)弁護士 弁護士法人アズバーズ 企業法務・交通事故・相続・離婚問題等を得意としている千代田区・青梅市の弁護士法人アズバーズ代表弁護士。中央大学の法律顧問(法実務カウンセル)を担当している。応援団出身であり現在監督。「弁護士 ラーメン」と検索すると自身のラーメンブログが一番上に出てくる程のラーメン通。