なぜ武藤事務総長は森辞任会見を設定せず後任人事の政府介入を否定したのか…辞退の川淵氏が最も透明だった皮肉と矛盾
そもそもの騒動の引き金を作った森会長が辞任を表明した12日に記者会見に出席して質疑応答に応じなかった理由も「不透明」だ。 武藤事務総長は、懇談会の冒頭での約15分間の辞任挨拶をメディアに公開したことを理由にしたが、それでは説明不足。森会長は、その挨拶の中で「これは解釈の仕方だと思う」「多少意図的な報道があったんだろう」との再び問題発言を残しており、なおさら会見で、その真意について説明する責任があっただろう。 いわゆる女性蔑視問題の総括を「不透明」のままに据え置いて「選考のプロセスに透明性が不可欠」と強調されても説得力に欠ける。一連の騒動の中で「密室人事」の中身をすべて正直にメディアに明かした川淵氏が、もっとも透明だったのは、なんたる皮肉だろうか。 川淵氏は、嘘をつけない人であり、Jリーグ・チェアマン、日本サッカー協会会長の役職を通じて、メディアの役割を知り、ついサービス精神が出る。そのため過去には「言っちゃった」発言で有名になった次期監督・オシムの監督人事を公にした事件などもあったが、観測気球の類の発言ではなかった。誠実で明確なビジョンを持つ信念の人ゆえに、今回、そのスポ―ツ団体トップの感覚のまま、すべてをオープンに話したことが裏目に出た。 さて問題は来週には決まる後任候補である。プロセスの「透明性」と同時に、この非常事態にトップを務める人は、性別も年齢も関係なく、適任者でなければならない。”老害”を避ける必要も、菅総理の希望する「女性で若い人」である必要もない。 武藤事務総長は一般論で「五輪、パラリンピックについてのなんらかの経験が必要」と語ったが、それも条件。ジェンダー平等、ガバナンスの意識も高くなければならない。川淵氏も「残されたことは多くない。ほとんどの問題は今までに決められている」と明かしており、実務よりも、開催に向かうために必要な安全、安心をいかに担保して、それを世界へアピールできるかというリーダーシップと、東京五輪の”顔”としての発信力が重要だろう。 そういう意味では、“老害”の批判があろうとも、Jリーグに百年構想を持ち込み、分裂していたバスケットボール界をひとつにまとめた理念と信念の人である川淵氏が最適だったのだが…。 男女半々、アスリート中心の数名の理事で構成される候補検討委員会は、どんな結論を出して、そして、時間が限られる中で、どれだけの説得力を持って新会長を選ぶのか。 川淵氏は13日、ツイッターを更新し、心身ともに疲れ果てた心情をこう吐露している。 「皆さんご支援本当に有難うございました。今はスッキリした気分ですので他事ながらご安心ください。と自分でも思っていたのですが流石に身体は綿のように疲れ切った感じです。偶(たま)には弱音を吐かせてください」