なぜ武藤事務総長は森辞任会見を設定せず後任人事の政府介入を否定したのか…辞退の川淵氏が最も透明だった皮肉と矛盾
森辞任、後任川淵のニュースが駆け巡ったのが11日。複数のメディアの報道によると、その夜に自宅前で取材に応じた川淵氏は、森氏から“後継指名”を受けた「密室人事」の中身を明かした。その会談の席で、森氏から、小池百合子都知事、菅義偉首相、安倍晋三前首相、武藤敏郎事務総長との根回しが終わっていることを聞かされ、菅首相が「女性か、若い人」を希望していたという話まで赤裸々に語っている。「最初から外堀が埋まっていて断れる状況でなかった」とも話した。だが、外堀の一人であるはずの武藤事務総長は、川淵氏が会長候補に挙がっていることを「メディアの方から聞いた。しかも、川淵さんの映像が映っていて、おっしゃっていることが確認できる形だった」と説明した。 また前出の4者における“合意”についても「関係者の了解があったのではないか、という点については、私は、そのように了解しておりません」と否定した。この武藤事務総長の話が事実であれば、森氏が川淵氏に嘘を伝えたことになる。 この真偽も「不透明」だ。 川淵氏は会長就任した場合の最大のミッションである東京五輪の中止を回避するための私案まで披露した。そして、さらに問題になったのが「僕個人の相談役を森さんにお願いしたい」と「森院政」とも取れる発言をしたことである。今後、財政面、資金面での力技が必要になったとき、川淵氏一人では対処できないため、素直に政治力と人脈のある森氏の協力が不可欠になるとの実情を語ったに過ぎないが「密室人事」「森院政」をオープンにしたことで政府の反発を食らった。 事態が動いたのは、この後である。 川淵氏は、武藤事務総長と、2、3度、電話で話をしたことを明かし、その話のニュアンスから人事が潰れたことを理解し、辞退を決意したという。武藤事務総長は「手続きをご存じだとは思うが、念のために“こういうこと”と申し上げる必要があると思った」と電話をした理由を説明している。 前出したように、そこに政府介入があったことは否定したが、2、3度、電話をする間に、武藤事務総長は、どこの誰と、どんな相談をしていたのだろうか。 複数のメディアに川淵氏は「今、話せることはない、と言って家に入れば良かった。すべて私が悪い、私の責任」と、辞退後に語っているが、もし、この“フライング発言”がなければ、これらの水面下の動きは”封印”されたまま公益財団法人の正式な手続きを経て「川淵新会長」が誕生していたのだろう。 今後の後任候補の選考に関しては、候補者検討委員会が立ち上げられ「プロセスの透明性」を確保した上で、正式な手続きを経て新会長が決定される。本来なら検討委員会も、すべてメディアに公開の上で行うべきだが、候補者決定後にその過程を説明するという。 菅総理も、武藤事務総長も、そして次期会長の有力候補とされる橋本聖子五輪担当大臣も口を揃えて「透明性」を訴えた。 だが、森辞任の声が高まった際には、「組織委員会が決めること」と不介入を貫いていた菅総理が、なぜ手のひらを返して「女性や若い人が望ましい。国民から歓迎される人を透明性をもって決定すべき。そう考えています」などと踏み込んだコメントをするようになったのかも「不透明」である。