「ここは地獄か!」…日本軍「潜水艦医」が記録した「極限の人間記録」の”エグすぎる中身”…!
潜水艦を舞台にした極限の人間ドラマに人はなぜ魅了されるのか――。今夏に日本で公開された映画「潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断」のほか、「Uボート、西へ!」(エルンスト・ハスハーゲン著)、「深海の使者」(吉村昭著)、「敵対水域」(ピーター・ハクソーゼンら著)などの傑作ノンフィクションもすぐに浮かぶ。 【写真】軍事誌発「伝説の航空機本」、そのすごい中身を公開する…! 静かなる潜水艦作品ブームがじわじわと広がる中で、今ビジネスマンの間で注目されているのが若き軍医中尉が太平洋戦争での米駆逐艦との死闘を克明に記録した『新装解説版 鉄の棺 最後の日本潜水艦』(齋藤寛著、光人社NF文庫)だ。 敵艦からの攻撃を受けながらフィリピン沖の深度100メートルで体験した50時間に及ぶ潜航中の艦内は、最高室温50度に及ぶまさに「地獄」。軍事の視点とは異なる軍医の目でとらえた「極限の人間記録」として読み継がれてきた昭和の傑作は「令和の日本人」が学ぶべき教訓が詰まっていると評判だ。その話題の書から一部抜粋・再構成してお届けする。
腐った生糧品を捨てると魚が集まり航跡露見の端緒に
潜水艦での生活は、神経が磨り減る毎日だった。例えば、腐った生糧品を艦外に捨ててもらおうと掌水雷長からこう注意を受けた。 「艦長にお話ししないと棒切れ一本でも捨てられないんです。まして生糧品なんてことになると捨てた後で魚が集まりますから、潜水艦が通ったということがすぐ分かっちゃいますからね」 また、輸送船などを撃沈させる戦果があった場合でも艦長は、戦果を内地に打電するのを控えているようだった。もし打電して、方位測定でもやられ、正確な位置を発見され、逆に厳重な対潜警戒でもやられたら、それこそ獲物にありつくどころではなく四苦八苦の生死の淵に追いつめられるからだ。敵の圧倒的な制空・制海権下の海面では電信一本、うっかり発信できないのだ。
温度45度の中で飲むサイダーの不味さ
敵の爆雷が続く中、艦内は45度に達し、喉の渇きに耐えられなくなる。 飲料水がなくなり、あるのはサイダーだけである。乾いた咽喉をサイダーで潤そうとして栓を抜くと、暖まったサイダーの半分は外に流れ出てしまう。気持ちの悪くなるような甘味と温かく口中を刺戟する炭酸ガスの泡の感覚とが混じり合って、食道から胃の中へと落ちていく。サイダーというものを、どうしてこんなに甘く作ったんだろう。もっと甘味の少ないほうが良かったのに、と腹立たしくなる。 汗でじっとりとした士官室のソファーの上に横になる。もう30時間も寝ていないのだから少しは眠らないといけない、と思いながらじっと横になっている。汗が胸骨の辺りに溜まりだした。側胸部を伝わって背中に回りソファーに吸い込まれる汗の流れて行く感じが、虫が体を這いまわるようで気持ち悪い。 汗と咽喉の渇きのほかに炭酸ガスと温度との闘いも続けなければならない。士官室の炭酸ガスはもう4%をすでに越しただろう。呼吸するにも努力がいる。引き出しをあけて、大切にとっておいた空気を、スーッと胸深く吸い込む。うまい。甘い。咽喉から胸の中が軽くなる。