「ここは地獄か!」…日本軍「潜水艦医」が記録した「極限の人間記録」の”エグすぎる中身”…!
熱と湿度と炭酸ガスと酸素の欠乏と戦うのが潜水艦乗員の生き抜く道
つい4、5時間前までは驚くくらい流れ出していた汗が、いつの間にかだんだんと少なくなってくる。汗腺までがほんとうに疲れてきたのだ。体内に蓄積された老廃物が、出口を失って体の中を流れまわっているのだと考える。 熱と湿度と炭酸ガスと酸素の欠乏と最後のとことんまで戦っていくのが潜水艦乗員の生き抜く道なのだ。 むしろ浮上決戦をしないで、このまま環境の憎悪の前に倒れるのが潜水艦乗員の生き抜く道だ、と考えるものの、固く植え込まれた「忍」の精神がなければ、とてもできない仕事である。そして、この「忍ぶ心」は艦長への信頼感が信仰にまでも昂まっていなければできない仕事なのだ。
ねずみ5匹も一列に並び新鮮な空気を吸った
潜航から50時間以上たち、攻撃が収まったと判断した艦長がついに浮上の決断をする。 一番見張員がハッチを開いたとたんに、ポーンと天蓋にまで投げ上げられ、いやというほど頭を打ったらしかった。艦内の高い気圧が艦外に逃げ出すとき、ちょうど一番見張りの信号兵が空気銃の弾の役目をしてしまったわけだ。 さっきとは逆に物凄い速さで海面からの新鮮な風が、ゴーッと音をたてて風速40メートルで飛び込んできた。サラサラした、甘い冷たい空気が飛び込んできた。おいしい。口腔から咽頭にかけて甘さが心地よく浸み込む。胸の中がスーッと軽くなる。 思わず、欲張って深く深く空気を吸い込む。一度吸い込むと、ジーッと胸の中に空気を入れたままにしておく。頭から顔、顔から体を、その新しい涼しい空気が、今までの苦悩を流し去るように心地よく滑っていく。皆も互いに顔を見合わせてニッコリと笑う。 そして、ねずみが5匹も一列に並んで、私たちと同じように新しい空気を吸っている。ねずみもさぞ苦しかったのだろう。ねずみのひげが風でブルブルと動いている。お互いに体をぴったりとくってけて…。
潮書房光人新社