保護されるサルと殺されるサル 交雑種57頭はなぜ殺されたのか
もともと実験動物として輸入されたアカゲザル
2. なぜ交雑種サルは殺されたのか? 2-1. 特定外来生物法によるアカゲザル交雑種の飼養禁止 今回問題となっているアカゲザルは、ニホンザルと同じオナガザル科マカク属で、中国、インド、チベットなどに生息するサルである。ニホンザルとは非常に近縁で、外見はよく似ているが、ニホンザルより少し尾が長い。アカゲザルは脳科学等の実験動物として広く利用されており、日本においても中国から輸入して利用されてきた。 マカク属にはアカゲザルとニホンザルの他にタイワンザルやカニクイザルなどが含まれるが、これらは種間交雑が可能で、交雑により生まれた個体も生殖能力を持つとされる。 アカゲザルは2004年に制定された特定外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)において特定外来生物に指定されており、2014年にはニホンザルとアカゲザルの交雑種も特定外来生物に指定されている。これにより、アカゲザルおよびアカゲザルとニホンザルとの交雑個体のいずれも許可なく飼養、運搬することが禁じられている。また、愛玩・観賞のための飼養は許可されない。 したがって、高宕山自然動物園において57頭の交雑種サルが殺処分された理由の1つは、特定外来生物にあたるニホンザルとアカゲザルの交雑個体を飼育することは制度的に不可能であったということである。
高宕山地区はニホンザル生息地として天然記念物指定されていた
2-2. 高宕山地区におけるニホンザル生息地保護とアカゲザルの拡大 交雑種サルが殺処分された背景がもう1つある。それは、高宕山自然動物園の周辺が、ニホンザルの生息地として1956年に天然記念物指定されているということである(*2)。 つまり、この高宕山地区はニホンザルの生息地として保護される必要があり、そこにニホンザルではない交雑種サルが群れに混じって交雑が進んでいくことは、天然記念物保護の観点から回避すべきであるということだ。 そもそも、外来種であるアカゲザルがなぜニホンザル生息地の高宕山地区に存在するのか。 房総半島の南端部ではもともとサルは生息しないと考えられていたが、房総半島の南端に位置する白浜地区では県の調査によって、野生化したアカゲザルの群れの存在が1995年に確認されている。千葉県は特定外来生物法が施行された2005年から本格的にアカゲザルの駆除を行っているが、この間に半島南端部のアカゲザルの群れの拡大と、房総半島中央部の高宕山地区のニホンザルの群れとの交雑が進んだと考えられる。千葉県が2013年に公表した調査の結果では、木更津市などの6市町村で交雑個体が発見されている(*3)。房総半島南端部のアカゲザルの群れのオスが半島中央部のニホンザルの群れと行き来していることも確認されている(*4)。 今回のケースでは、高宕山自然動物園の老朽化した檻の隙間からニホンザルが園外に出て、野生化したアカゲザルや交雑個体と接触したと考えられている。檻の中で飼育されていたはずのニホンザル群の中に、実は飼育が禁じられているアカゲザルとの交雑個体が含まれていたのである。