動物の赤ちゃんをかわいいと感じ、求めてやまないのはなぜ? 進化や社会にもたらすものとは
「人間を人間たらしめているのです」
SNS上では、飼いネコが幸せそうにうたた寝をしている写真があふれ、そのネコがのびのびと暮らせるように飼い主がいかに懸命に働いているかを説明するキャプションが添えられている。 これは偶然ではない。現代の私たちがかわいいものを求めたり共有したりする行動の多くは、逃避主義、つまりトラブルのない生活の理想化によって引き起こされている。この点については、デール氏が共同編著した学術書『The Aesthetics and Affects of Cuteness(かわいさの美学と影響)』で詳しく論じられている。動物にとって人に飼われる生活とは、家庭でも飼育施設でも、何歳であろうと余暇を過ごすことを意味する。 コビトカバのムーデン(「弾むブタ」などを意味する)の場合、デール氏は動きが私たちにとっての魅力の鍵だと考えている。 「ムーデンは見た目よりも動きの方が、かわいいという反応を多くの人に引き起こしていると思います。ムーデンはホースで水をかけられると嬉しそうに遊び、飼育員に噛みついてじゃれます。私たちは、社会化の途上にある動物が、何もかもが新鮮な世界を、恐れず熱心に探求する姿に心を引かれるのです」 かわいい動物は口答えしたり文句を言ったりしないため、理想化しやすいかもしれない。さらに、多くの種は(人間と比べて)一生小さなままだ。 私たちの関心は、もちろんSNSだけにとどまらない。動物と間近で直接触れ合う機会は、今や従来のふれあい動物園の域をはるかに超えている。動物園や水族館での高額なプライベート体験から、ネコカフェ、ヤギヨガ(ヤギの赤ちゃんと共に行うヨガ)、カピバラ風呂にいたるまで、私たちは他の生きものとのつながりを強く求めている。 野生動物との管理された交流は、保護活動への関心を高めることができる一方で、野生動物をペットとして飼いたいという欲望を煽り、動物を搾取したり動物にストレスを与えたりすることを容認してしまう恐れもある。 デール氏は、インフルエンサーに人気のある日本のキツネ村を訪れたときの経験を、著書の中で紹介している。キツネのそっけない行動にいら立った訪問者たちは、キツネに近づいてもらうために、掲示された規則を無視することがよくあるいう。 「かわいいという感情は単なる利己的な喜びではありません。かわいい赤ちゃんや動物を守り、世話をし、一緒に遊びたいと感じることは、たとえその対象がSNSのフィードに表示される画像に過ぎなくても、共感や思いやりの気持ちをかきたてます」とデール氏は請け合う。 かわいいと感じることは私たちの中に組み込まれた、抑えられないものであり、「私たち人間を人間たらしめているのです」
文=Olivia Campbell/訳=杉元拓斗