皆に好かれたがん患者が病室で死去 会いに行けず後悔した看護師に、先輩がかけた思いがけない言葉…あるべき看護とは
「この患者を特別に気にかけていたように思う」
看護師は「この患者に対して自分は特別に気にかけていたように思う」と話してくれました。自分の祖母と重ね合わせていたこともあるといいます。看護師はどのような患者であっても平等にケアし、どう振る舞うことが平等であるかを常に考えるように専門職として教育されています。専門職としての適切な振る舞いのラインはどこにあるのか、考えさせられる場面だと思います。 心情としては、自分が看護師だったらこの看護師のように患者と関わるかもしれないと思いました。一方、ほかの患者さんすべてにも、勤務後に特別に時間を作って会いに行くなど同じようにできるだろうか、他者から自分の行動がどう見えるのか、と考えることは一つのヒントになると思いました。 この先輩看護師があえてと言うべきか、このような問いかけをしたことは、まさにそれぞれの看護師の専門職としての行動を振り返ること、内省することの意味を教えてくれたものだったと思います。だからこそ、この看護師は立ち止まって自分や他スタッフとこの患者さんとのかかわりについて考え、今でもこの場面を覚えているのだと思いました。 人は常に平等な振る舞いをできるわけではなく、意識していないと、そのラインは常に一方に押しやられてしまいます。自分で意識することも大切にしながら、こうやって誰かの問いに耳を傾けることは専門職として重要です。またチームという意味では、このようにチームの誰かが、客観的な問いを投げかけられるような専門職集団の構築も倫理的な実践につながると思いました。
鶴若麻理(つるわか・まり)
聖路加国際大学教授(生命倫理学・看護倫理学)、同公衆衛生大学院兼任教授。 早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)。映像教材「終わりのない生命の物語3:5つの物語で考える生命倫理」(丸善出版,2023)を監修。鶴若麻理・那須真弓編著「認知症ケアと日常倫理:実践事例と当事者の声に学ぶ」(日本看護協会出版会,2023年)