類まれな世界最速「トラック」 ベントレー 4 1/2リッター(2) 唯一の本物コンディション
世界最速のトラックと表現された勇姿
YW 5758は、2019年のペブルビーチ・コンクール・デレガンスにも再び出展。ここでもクラス2位が与えられている。グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードへの招待も、毎年のようにある。 当時のまま生き抜いた貴重なレーシング・ベントレーは、筆者の心を震わせる。ボンネットが高く、ラジエターグリルには約100年前のル・マンで振られた8番のゼッケン。エットーレ・ブガッティ氏が、「世界最速のトラック」と表現した勇姿へ息を呑む。 サイクルフェンダーもオリジナル。当時は19インチのワイヤーホイールだったが、現在は21インチを覆っている。レザーで仕立てられたドライバーズ・シートをめくると、シート高を調整できるインフレータブル・バッグが姿を表す。 助手席側のドアパネルには、安全な旅を願ったセントクリストファーのメダル。足元には、深夜の修理で活躍する携行ライトが用意されている。これらもすべて当時物だ。 エンジンのアンダートレイもオリジナル。リアアクスルの後ろに積まれた、巨大なガソリンタンクと、その保護材も。 麻が巻かれた、ステアリングホイールの直径は20インチ。バークレーとクレメントが、まさにサルト・サーキットでマシンと格闘していた場所だ。7枚のメーターが、一見無秩序なようにダッシュボードへ並んでいる。
往年のル・マンでの白熱を体感できる本物
点火用のマグネトースイッチは右側。巨大なタコメーターはイェーガー社製で、4000rpmでレッドライン。リアシート部分は、フロントシート直後のバルクヘッドから伸びるトノカバーで覆われ、特有のサイドシルエットを生み出している。 4.4L直列4気筒エンジンを目覚めさせると、ストレートパイプから放たれる圧巻の排気音が周囲に充満する。アイドリング時の回転数は高め。フロアから伸びる、アクセルペダルは中央。僅かに押し込むと、すかさず回転が上昇する。 車重は1625kgと、当時のマシンとしては平均的な重さ。進み始めると、ガシッとソリッドな印象へ感心してしまう。操縦系の手応えにも、それと通じる重厚感がある。 4速マニュアルのレバーをゆっくり傾ける。滑らかに、次のギアへ切り替わる。使われなくなって久しい、ブルックランズ・サーキットの路面はすっかり荒れているが、短いストレートを軽く飛ばしてみる。 この3倍ものスピードで、同時のドライバーが耐えていたのかと想像すると、胸が熱くなる。相当な集中力が必要だったに違いない。小さなエアロスクリーンに身を屈めながら、チェッカーフラッグを追い求めたのだ。 YW 5758以上に、往年のル・マンでの白熱を体感できるマシンは極めて少ない。何しろ、すべてが本物なのだから。 協力:ブルックランズ博物館、アラン・ウィン氏
ベントレー 4 1/2リッター(市販モデル/1927~1931年/英国仕様)のスペック
英国価格:-ポンド(新車時)/50万ポンド(約9600万円/現在)以下 生産数:667台 全長:4380mm 全幅:1740mm 全高:-mm 最高速度:144km/h 0-96km/h加速:-秒 燃費:-km/L CO2排出量:-g/km 車両重量:1625kg パワートレイン:直列4気筒4398cc 自然吸気OHC 使用燃料:ガソリン 最高出力:111ps 最大トルク:-kg-m トランスミッション:4速マニュアル(後輪駆動)
サイモン・ハックナル(執筆) マックス・エドレストン(撮影) 中嶋健治(翻訳)