村上春樹のおかげで『百年の孤独』は日本で大ヒットした!? 「わかりやすさ」が求められる時代にブームになった理由とは【スゴい文学史】
ロングセラーにもかかわらず、長らく文庫化されなかったラテンアメリカ文学の名作『百年の孤独』(ガブリエル・ガルシア=マルケス)。「文庫化されると世界が滅びる」という都市伝説まで生まれていた本作が、2024年ついに文庫化。異例の大ヒットとなり、話題を呼んでいる。しかし、登場人物が多く筋のつかみにくい『百年の孤独』が、「わかりすさ」を重視する現代日本でなぜここまで受け入れられたのだろうか? その一因として考えられるのが、“村上春樹ブーム”である。どういうことか、見ていこう。 ■複雑な群像劇が、なぜ日本でヒットしたのか? 南米コロンビアを代表する作家というだけでなく、世界的な大文豪として知られるガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』。最近、新潮社で文庫化され、ベストセラーになっています。 新潮社のプレスリリースから紹介すると、『百年の孤独』は「46言語に翻訳され、5000万部を売り上げている世界的なベストセラー」であり、発売当初から世界中で大ヒットを記録した作品です。日本では、1972年に鼓直(つづみ・ただし)さんの翻訳で発売された新潮社の単行本が、約30万部を売り上げているとか。そして、ガルシア=マルケスの没後10年にあたる今年(2024年)に初文庫化されたとたん、ブームが再燃したようです。 しかし、『百年の孤独』は、タイトルにもあるように、100年、7世代にわたる「ブエンディア家」という一族の衰亡を描いた小説です。舞台は南米の架空の村の「マコンド」、登場人物もきわめて多く、アルカディオとアウレリャノという兄弟の生まれ変わりが登場して絡み合って……という複雑な物語。「わかりやすさ」「読みやすさ」を至上の価値にしがちな現代日本の出版界では、異端視される内容なのに「なぜか」大ヒットしているわけです。 背景をざっくりと考えてみると、日本人は、ガルシア=マルケスが好んで使った「魔術的リアリズム」という手法に、どことなく親近感を覚えてしまうからではないでしょうか。村上春樹の作品を読んだことがある方なら、すでに意識しない形で「魔術的リアリズム」には親しんでしまっているはずなのです。