世界最古のシャーマン? 1万2000年前の女性の遺体を「死から蘇らないよう封印した可能性」も
2019年、トルコ南東部のチグリス川のほとりにあった紀元前9300年頃のものと思われる住居跡を調査していた際に、床下から埋葬された遺骨が見つかった。遺骨は25歳から30歳の成人女性のもので、珍しいことに、その周りからはヒツジやヤギの骨や、ヤマウズラの翼、テンの脚、現在の牛の祖先にあたる動物、オーロックスの頭骨などが見つかった。 「ÇH 2019/05」と名付けられた遺骨はマルディン・アルトゥクル大学の考古学者と人類学者によって研究調査され、その成果が7月9日付けの学術誌「L'Anthropologie」に発表された。 ÇH 2019/05が埋葬された年代は、世界中の全ての人類が狩猟採集生活をしていた1万2000年以上前ということがわかった。当時はまだ農耕が発達しておらず、一緒に埋葬された動物は家畜化されていない野生のものだったと推察されるが、墓は密閉されていたので、骨が偶然そこにあったとは考えにくい。 さらに、動物の遺骨は女性の体のさまざまな部分に意識的に置かれていたことが分かった。例えば、オーロックスの頭蓋骨部分は胸に置かれていたが、顎の骨部分は切り離されて足元にあった。このことから研究チームは、「遺骨の女性はシャーマンであったか、あるいは少なくとも、今日我々がアニミズムやシャーマニズムとして理解しているような方法を実践していた人物によって埋葬された可能性が高い」と結論付けた。このような方法で埋葬された例としては世界最古であるという。 遺骨の女性が生きた新石器時代には、動植物から天気に至るまで、全てのものには霊的な本質があり、ある意味で生きているというアニミズムが信じられていた。特に動物は、しばしば強力な霊的存在やガイドとみなされ、強さや勇敢さといった抽象的な概念を表す強力なシンボルでもあった。その中でシャーマンは、詠唱、芸術、歌、幻覚剤の使用を含む儀式を通じて霊的なものと交信し、コミュニティを導いてきた。 研究チームは今回の仮設について、次のように語った。 「このような埋葬の方法はこの地域で例が無く、彼女は他の共同体のメンバーとは異なる扱いを受けていたことがわかります。もしくは、彼女が人間界と動物界の関係においてなんらかの役割を果たしていたことを示しているのかもしれません」 また研究チームは、どうしてこの女性がコミュニティの中で特別な存在になったのかは分からないとしながらも、「もしかしたら、彼女はあの世の霊に触れた少しばかり常軌を逸した人間だったため、コミュニティの人たちから恐れられていたのかもしれません。オーロックスの頭骨や石灰石の板と一緒に埋葬したのは、彼女が死から蘇らないよう封印した可能性があります」と続けている。 遺骨が発見されたトルコ南東部には、農耕が発達する前の重要な過渡期の狩猟採集民の複合集落あるいは宗教的施設と考えられるギョベクリ・テペなど、人類の文化の進化の過程を知る重要な手掛かりとなる遺跡が多数存在している。
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