Painkillerで音作りした“メタル特化ヘッドホン”「MW-HP20HR」。ひと足先に聴いたらメタラー魂がBurnした
音楽のジャンルに優劣はない。が、それはそれとして、メタルこそTrue Musicである(編註:個人の見解です)。一度のめり込んだら最後、シーンから距離を置くようになったとしても、あのメタルサウンドが耳に飛び込んできたら一瞬で血液が沸騰し出す魔性の音楽だ。 【写真】該当セットに付属するオリジナルケーブルを使うと、より高域が強いサウンドになる そんなメタルがDNAに刻み込まれたメタルヘッズ諸兄にとって福音となるヘッドホンが登場した。マクサー電機の「MW-HP20HR」である。 SOUND WARRIORのモニターヘッドホン「MW-HP20」をベースにしつつ、「Judas PriestのPainkillerが最高にカッコよく聴けるヘッドホン」をキャッチコピーに、80-90年代のバンドサウンドに特化したチューニングを施したという本モデル。 8月24日18時までMakuakeにてクラウドファンディングを行なっているのだが、このコンセプトに多くの方が共感したのだろう、本記事を執筆している8月上旬時点で達成率1200%以上という人気ぶりだ。 記者も高校時代、ディスクユニオン新宿ヘヴィメタル館に週3で通い詰めていたメタラーの端くれ、決して他人事ではない。今回、販売に先駆けてデモ機をお借りすることができたので、じっくりと試してみた。 ■Painkillerを聴けば魂が理解する「ソリッドなドンシャリ」 MW-HP20HRのサウンドを一言で表すなら「ソリッドなドンシャリ」なのだが、かなりバンドサウンドに寄ったドンシャリ具合だ。具体的にいうと、ギターがど真ん中にきつつ、メタルでは比較的タイトになりやすいベースが持ち上げられているような印象。また、スネアやシンバルを鋭く、バスドラを粒立ち良く鳴らしてくれるため、実に頭を振りたくなる。 本機がお手元に届いた際は、是非とも最初にPainkillerを聴いてみてほしい。ベンチマークにしただけあってサウンドキャラクターが分かりやすく、かつバッチリハマっている。開幕のドラムに始まりカミソリのように鋭いギターのスクウィールとリフ、ロブのハイトーン、4連スウィープからのギターソロと、全てが気持ちよく聴けること請け合いだ。 なお、本機はあくまで「バンドサウンドを楽しく聴くためのヘッドホン」であって、解像感などの一般的なオーディオにおける高音質は追求しておらず、ジャンルや曲調によって合う/合わないもハッキリ出てくるという。実際、相性の良し悪しはかなり出やすい。 例えば、ソリッドな音質ゆえに高域がやや歪みやすく、金管楽器や女性ボーカルはキンキンしたうるさい音になりやすい。さらにピアノやアコースティックギターなども、発音がクッキリする反面、木の鳴りが薄く、軽い音になるきらいがある。 ただ普通のヘッドホンであれば歪みは御法度だが、本機においては「オーバードライブがかかっている」とも捉えられ、バンド隊の迫力アップに一役買っている。ボーカルも、ジャズやバラードでは歪みが気になってくるが、陰陽座やUnlucky Morpheusといった伸びやかで力強いメタル系女性ボーカルであれば、むしろ男性ボーカルよりハマってくれるかもしれない。 メタルの中でも相性の良し悪しは出やすく、ギターはエッジの立った、かつ分厚く音圧のあるタイプが、ベースはしっかりとボトムを支える低重心でファットなタイプがマッチする印象。また、分解能の高さや全体のバランス感よりも迫力を重視した鳴らし方から、音数の多いものはゴチャゴチャしやすく、綺麗に整えられた音源は逆に物足りなさを感じる。 それこそ我らが王者イングヴェイ・マルムスティーンなどは、どちらかというとゲインが高すぎず艶のあるギターサウンドなうえ、全体的にバランスの良いサウンドメイクがなされているため、ソロ以外はギターが埋もれているように感じられた。 また、ビリー・シーンやMASAKIなど、ハイポジションを使って高速ソロを弾きまくるタイプのベーシストもやや噛み合わないように思える。ベースに関してはルート弾きに徹する職人気質なタイプや、フリーのようにコシの強い音を鳴らすタイプが相性良いだろう。言うまでもないが、スティーヴ・ハリスはベストマッチだ。 ■極私的な「MW-HP20HRがハマるメタル」をピックアップ 相性の問題はあれど、ハマる時は徹底的にハマってくれるのがとても楽しいところ。本機のクラウドファンディングの活動レポートページでは、実行者が合うと思う曲としてPainkillerの他にImpelliteriの「Rat Race」、Carcassの「Heartwork」、LOUDNESSの「SOLDIER OF FORTUNE」、Panteraの「Mouth for War」が挙げられていたが、記者個人としても相性が良かった曲をいくつか紹介しよう。 まずは王道どころから、Slayerの「Disciple」を挙げたい。マシンガンのように連打されるバスドラとヘヴィなリフ、分厚いベース、その上に乗っかる吠えるようなトム・アラヤのボーカルがあまりにも相性抜群。Megadethなども含むスラッシュメタルは総じて相性が良い印象だったことに加え、Metallicaの4thアルバム「...And Justice for All」のベースの音が(比較的)聴き取りやすくなっていたことも記しておく。 デスメタルの始祖ともされるDeathの「Overactive Imagination」や、米テクニカルデスメタルバンド・Nileの「Sacrifice Unto Sebek」あたりもオススメだ。特に爆速のブラストビートでも粒立ち良く聴かせてくれるあたりに、メタラーの本能に訴えかける力を感じる。ギターのリフやソロはやや潰れてしまっているものの、もともとゲインが高い上に早すぎて分かりづらいところがあるので、ノリ重視と考えればご愛嬌だろう。 イングヴェイにはややネガティブな印象もあったが、氏のフォロワーであるダッシャン・ペトロッシ率いるIron Mask「Freedom's Blood - the Patriot」などは、ギターが荒々しく聴きごたえがある。 同じネオクラシカルメタルだと、天才キーボーディスト、ヴィタリ・クープリのバンド・Artension「Into the Blue」も実に良い。メインはキーボードながら、ボーカル/ギター/キーボード全員の主張が激しく、常に誰かしらがグイグイ前に出てくるので、最後まで退屈する場面がない。先ほどのIron Maskもそうだが、全体を見て綺麗に整えられたサウンドより、プレイヤーの自己主張が激しいサウンドの方が楽しく聴けるように思えた。 変わり種では、国産ポストブラックメタルバンド・明日の叙景の「キメラ」も挙げておきたい。シューゲイザーとブラックメタルの要素がミックスされた分厚く飽和感のあるギターが頭を包み込み、ライブハウスで見ているかのような陶酔感が味わえる。 ◇ 取材と称して好きなバンドを聴きまくったが、本体質量215gと軽量なうえ、イヤーパットとヘッドバンドが柔らかく、側圧も弱めなため、長時間装着していても痛みは感じなかった。SOUND WARRIORのMW-HP20をベースとしていることから、イヤーパッドなどのアクセサリー類は同機用のものを使えるのもありがたいポイント。 また、「超早割オリジナルケーブルセット」に付属するオリジナルケーブルを使うと、よりソリッドで高域の鋭いサウンドに変化する。特にシンバルのブライトさやギターリフのザクザク感、ハイトーンボーカルの伸びが向上するが、高域があまり好きでない方にはキンキンした音に感じられるだろう。ここは好みに応じて選ぶと良さそうだ。 ここでは紹介し切れなかったが、ロック/メタル以外でもマッチする楽曲があったりするので、色々と聴いてみるのも宝探しみたいで楽しかったりする。ただ、先にも述べた通りあくまで「バンドサウンド特化」の一点突破型ヘッドホンなため、メイン機としての運用は難しい。普段使いのイヤホンやヘッドホンを持ったうえで、気分などで使い分けるためのモデルだということを留意いただきたい。 もう一つ、使うときは定期的にヘッドホンを外して、耳を休める時間をとってあげてほしい。ただでさえ刺激的な音楽をより刺激的に聴くためのサウンドなうえ、迫力を出すためについ音量を上げたくなる。今回の取材時も、楽しくなって様々な音楽を聴いていたら、ふと外した際にライブ後のような耳鳴りがしていたことが何度かあった。 英Metal Hammer誌が2022年に掲載した記事によると、メタルは健康に良いらしい。つまりメタルは聴けば聴くほど健康になる完全栄養音楽(編註:個人の見解です)なわけだが、そのためには耳を労ることも大事。是非とも節度を持って、炎の導火線に火をつけまくってほしい。
編集部:杉山康介