競泳から転向後、3度オリンピックに出場。貴田裕美が語るスポーツの魅力「引退後もこんなに楽しい世界がある」
女性が安心してスポーツに取り組める場を
――トップレベルの競技だけでなく、部活などの第一線を離れても、女性が好きなスポーツを続けるためにはどのようなことが課題だと思いますか? 貴田:社会や環境の観点から見ると、女性が競技を続ける際には、結婚や出産、子育てといったライフイベントに対するサポートが不足していると思います。求める競技レベルによって考え方も異なりますが、スポーツを通して体を動かす楽しさや、仲間とのつながりを大切にすることが重要です。競技から離れた後も、仲間とともにスポーツを楽しむ場を見つけることができれば、女性が競技を長く楽しめるのではないかなと感じていますし、自分にできることは何か考えていきたいです。 ――子どもの目線や大人・親の目線から、「こんなことがあったら続けられる」と思うことはありますか? 貴田:試合会場に救護室があるように、試合会場に託児所も当たり前のようにある環境になるといいですよね。最近は出産後に第一線で活躍する女性アスリートも増えてきていると思います。その中でトップアスリートには支援があったりもしますが、コーチや試合関係者は支援がなく、お子さんを家族や親族に預けて試合に来るという現状が多くあります。誰でも試合会場で安心してお子さんを預けられる環境ができてほしいですし、女性が安心してスポーツに取り組める場が増えてほしいです。 ――年齢を重ねても生活の中にスポーツがあることで、どんなふうに人生が豊かになると思いますか? 貴田:私は小さい頃から負けず嫌いで、スポーツと言えば競うことばかりで、体育の授業中の小さな勝負でも負けたくない、といつも闘志を燃やしていましたし、現役時代は競技で結果を残すことに全力を注いでいました。ただ、引退してからも水泳に関わるお仕事に携わらせていただいていくなかで、「スポーツは競うことだけじゃないな」と、実感しています。幅広い世代の方の水泳指導をするなかで、「楽しそうだな」と感じたり、「好きなことをしている時って、人はすごく生き生きしているな」と感じて。勝ち負けだけでなく、人とのつながりができたり、年齢を重ねても毎日練習して自分の成長や、今までできなかったことができた時の喜びを感じる姿を見て、スポーツは健康だけではなく、心の健康や、コミュニケーションも生み出すのだなと感じています。引退してもスポーツに関わることでこんなに楽しい世界があると感じました。 <了>
[PROFILE] 貴田裕美(きだ・ゆみ) 1985年6月30日生まれ、埼玉県出身。競泳長距離とオープンウォータースイミングの選手として第一線で活躍し、ロンドン五輪、リオデジャネイロ五輪、東京五輪に出場。2021年の東京五輪のレースを最後に競技を引退。現在は日本水泳連盟OWS強化戦略スタッフとして、OWSナショナルチームの強化に携わる。国家資格である保育士資格を持ち、幅広い世代に水泳の魅力を伝えている。
インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]