考察『光る君へ』47話「命を懸けた彼らの働きを軽んじるなぞ、あってはならぬ!」実資(秋山竜次)に拍手!次回最終回、倫子(黒木華)の言葉のその先には?
「同じく」で乗り切ってきた男
道長と実資以外の貴族たちには、都から遠く離れた地で起こったできごとに対する危機感はないと描かれる陣定場面。 左大臣・顕光(宮川一朗太)は、まだ議題を聞いていないうちから右大臣・公季(米村拓彰)に「まかせる」と、大あくび。居眠りを続ける顕光はこの時75歳、公季は63歳。もともと政に志も情熱も燃やしている様子には見えなかった大臣たちのモチベーションが、老いて更に低くなっている。 では、公卿・参議の中で、若手はどうかといえば……。資平(篠田諒/実資の養子)、能信(秋元龍太朗/道長の四男・明子(瀧内公美)の三男)、通任(娍子の同母弟/古舘佑太郎)は「前例がないことゆえ、わかりません」。頼宗(上村海成/道長の次男・明子の長男)と教通(姫小松柾/道長の五男・倫子の次男)は「討つべし」。 行成は「朝廷が武力を振るってはなりません。祈祷をして邪気を払うべき」。現代の感覚では祈祷だけだなんて、なにもしないのも同然では? と思ってしまうが、日常生活から国家の一大事まですべて加持祈祷でなんとかしようとする平安時代の人々の姿を、この作品を通して一年観てきたので、行成の意見もわからなくはない。ただ、なんとももどかしい。 そしてこの人が本人の希望通り太宰府権帥として赴任していたら、今回の事態にどう対処していたのだろうかとも想像を巡らす。 公任(町田啓太)「大宰府のことは大宰権帥(隆家)が取り計らうべき」 俊賢(本田大輔)「しばらく様子を見るのがよろしい」 斉信(金田哲)「朝廷が武力を持つことはならぬが攻め入ってくるものは討たねばならぬ」 道綱(上地雄輔)「同じく」 大納言・藤原道綱、64歳。「同じく」で陣定を乗り切ってきた男。斉信は軍勢での討伐を提案しているのだけれど、それになにも考えず賛同して君は本当にいいのか。道綱はずっと憎めない男として描かれてきたが、いつもの口癖で国家の一大事が左右されるの、とても怖いんですけど。 先週の「刀伊の入寇」の緊迫感、最前線で戦っている武者たち、周明らたおれた民衆を思い出すと、緩んだ陣定の空気に舌打ちしそうになるが、そこに実資が登場した! 実資「敵が都を目指したときの時のために山陽道 山陰道、南海道、北陸道の守りを固めるべし。都の武者だけでは足りぬゆえ急ぎ各地の武者を集めるよう手配すべし」 道綱「めんどうだなーそれ」 さっき、斉信の迎撃案に賛同しとったやんけ! 本当に話をなんも聞いてなかったんだな!と怒りかけたら、実資が目を剥いて「めんどうとはなにごとか」。ほんとだよ。 そして、この結論は先送りにされ、さっさと大臣たちは陣定を切り上げてしまった。 ことは急を要するのだという実資の言葉は無視される。 46話で、戦船を国の軍事施設である主船司で調達しようというときに、朝廷の許可を待ってはいられないというやり取りがあった。陣定がこの調子では片道10日かかる連絡手段は仕方ないとして、たとえ当時電話があって事態をすぐに朝廷に伝えられたとしても、戦船の使用許可が出るまでにどれだけの時間を要しただろう。 実資とともに、観ているこちらの怒りのボルテージが上がっていく。 陣定での意見を受けて、幼い後一条帝(橋本偉成)の摂政として決断せねばならない頼通は頭を悩ませていた。 頼通「いくらなんでも都までは攻めてこぬよな」「このまま様子を見よう」 左大臣・右大臣とは違い、攻め上ってくる可能性については考えたものの、結局動かなかった。 道長は頼通を叱責する。 道長「民が! あまた死んでおるのだぞ。お前はそれで平気なのか」 道長は実際に民の屍が累々と積み重なった現場を見ている。鳥野辺で直秀(毎熊克哉)と散楽の皆を、そして悲田院では疫病で息絶えた人々を。世の中を変える力を持つべきだとまひろに励まされて頂に立った彼は今、その力を持っているのに何もせぬ息子を前にして憤る。 しかしその怒りは「父上であろうとそのようなことを言われる筋合いはございませぬ」と家族内での対立として矮小化されてしまった。摂政の座を退いて息子に譲る意志を打ち明けたとき「頼通様にあなたの民を思いやる御心は伝わっておりますの?」と言ったまひろの不安は的中してしまったのだ。 今回は、隆家と武者たちが対馬まで船を出して刀伊を追撃したので、大宰府から東へ敵が進軍することはなかったが、もしこれが海賊ではなく他国の軍であったら日本は滅んでいたかもしれないな……と想像してしまうような貴族たちの描写だった。史実では、ここまで他人事ではなかったはずだと思いたい。実際『小右記』ではこのときの陣定で、山陽道、山陰道、南海道の守りを固めようという意見は大臣から出て、実資はそれに北陸道も加えるべきと述べたと記される。 ドラマでは、居眠りしたり、地方の危機など頭にない様子の中央の政治家を、現代への風刺として描いたのだろう。 ちなみに、刀伊の襲撃によって連れ去られた人々についても『小右記』にある。日本から退散した賊の船は高麗軍とも戦闘となった。このとき高麗によって保護された多くの日本人が丁重な扱いを受けて帰国している。これにより、高麗による攻撃ではなかったという判断になったのである。ただ、これに対しても朝廷が警戒している節はあった。 異国からの侵攻に対して、当時の朝廷は無頓着ではなかったのだ。
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