還暦を過ぎた事件記者が保育士を目指す ポケットにセブンスターいざ短大入学式へ
朝日新聞社を退社した63歳の事件記者が第二の人生に保育士を目指す道を選んだ。経験はゼロ、素養は未知ながら、まずは資格を取りに短期大学の扉をたたく。記者時代と同じダークスーツに身を包み、入学式に臨む。未知の世界に挑む自らの経験を書き留めた緒方健二氏の著書「事件記者 保育士になる」(CCCメディアハウス)から一部を抜粋して紹介する。 【写真】34歳で中退した高校に再入学、大学で経済を学ぶシングルマザータレントはこちら *** ■入学式も「戦闘服」の黒スーツ、黒ネクタイで 2022年4月5日の朝は快晴でした。 春にしては強い日差しが目に染みます。新聞記者時代からの「戦闘服」たる黒スーツに漆黒のネクタイを締め、出立の支度にとりかかります。ネクタイは、送別会を催してくれた新聞社の後輩たちから頂戴しました。ひそかに敬慕するプロアイススケーター、羽生結弦さんもショーで時折着用しています。節目の大勝負に欠かせません。 白ワイシャツのボタンは最上段まで留めました。気合いの表明であるだけでなく、たるんだ首のしわを隠す効能もあります。ハンカチよし、携帯灰皿よし、財布よし。腰痛緩和ベルトよし。持ち物確認もおさおさ怠りなし。 きょうは東筑紫短期大学の入学式です。 久々の学生生活の初日に遅刻は許されません。タクシーを奮発し、意気揚々と会場に向かいます。道中、サイレンを鳴らして緊急走行するパトカーとすれ違いました。常ならば事件記者の哀しい性で、Uターンしてパトカーを追いかけるところ、本日はじっとこらえました。 式開始の1時間前に着きました。 タクシーの勘定を済ませると、運転手さんが「いってらっしゃい、せんせい」と声を掛けてくださいました。いえ、いや、やはりそう見えますよね。 桜が咲き誇り、風光るキャンパスをぶらつくと、そこかしこに着慣れぬスーツ姿の若者たちがいました。みなさんマスクをしていて、表情が読み取れません。目の動きから気持ちを察する訓練を積んできました。緊張が伝わってきます。