小惑星リュウグウに着地成功、探査ロボ「ミネルバ2」とは 初代の教訓糧に
着地リハ中止も日程に影響せず
9月11日から12日にかけて実施された着地のリハーサルでは、予定されていた高度30mに到達する前に中止されました。これは高度600メートル付近で、レーザー高度計(LIDAR)での高度測定ができなかったために、はやぶさ2自身が中止の判断をして、上昇に転じたためです。 レーザー高度計は、計測用のレーザーをリュウグウの表面に照射し、リュウグウからの反射信号を受け取ることで、はやぶさ2とリュウグウとの間の距離を計測します。リュウグウは、全体的に黒い色をしていて、レーザーなどの反射率が低い天体です。リュウグウは自転をしているので、レーザーがあたる場所は刻々と変わります。 それまで反射信号を受信できたのに、高度600メートル付近で受信できなかったのは、レーザーが当たった場所が他の場所よりも反射率が低かったか、斜面などの影響ではやぶさ2に向けてまっすぐ反射されなかったか、のどちらかが考えられます。リハーサル後の点検では、はやぶさ2の機体やLIDARには故障などの不具合はありませんでした。そのため、ミネルバII-1の分離は予定通り実行できると判断されました。 前回のタッチダウンのリハーサルが中止になったため、上空50メートル付近まで近づくのは、はやぶさ2にとっては初めての経験です。不測の事態が起きれば、即座に中止することも視野に入れながら、慎重に運用をしていきました。今回の経験も、はやぶさ2の着地への有益な経験となり、より精密な運用への新たな情報を得たことになります。
リュウグウ表面を飛び跳ね観測
今回のローバー投下では、高度60~50メートル付近で、2機のローバーが収まったケースのふたが開き、はやぶさ2から分離されました。それぞれのローバーはリュウグウの表面に接地すると、反動で少し弾みますが、そのうち表面で止まります。すると、モーターが動き、飛び跳ねるようにして移動します。その間、画像も撮るでしょう。リュウグウのように、表面が岩だらけで重力の小さな天体では、車輪を使った機構ではうまく移動できません。重力が小さすぎて、車輪が浮き上がってしまいますし、何かに乗り上げた瞬間に、宇宙に放り出されるほど飛び上がってしまう危険性もあるからです。 ですから、ミネルバII-1のローバーでは、モーターを回転させる力を利用して、飛び跳ねる独特の移動機構を採用しています。携帯電話は、マナーモードにすると、モーターによって本体を振動させます。ミネルバII-1のローバーも、同じように、モーターを動かすことで、機体を振動させるようにして、飛び跳ねるしくみになっています。1回のホップで最大15メートルほど飛び跳ねる能力を持ち、リュウグウの表面を移動します。そして、カメラで捉えたリュウグウ表面の画像ははやぶさ2を経由して、地球へと送られます。 ローバー1A、1Bともに、機体に付けられている機器からの情報から、自身が空中に飛び上がっているのか、地上にいるのか、はやぶさ2と通信がつながっているのかなどを自律的に判断し、適切に行動するように設計されています。リュウグウ表面という未知の環境でも、自身の置かれた状況を適切に判断することで、自律的な探査をおこないます。 ミネルバII-1が撮影した画像は、いったん、はやぶさ2のメモリに溜められるので、地球に届くのは22日以降の予定です。2機のローバーがリュウグウに無事着陸したのかを確認するのも22日以降になる可能性が高いといいます。機体の電力状況やリュウグウの表面の状況が良ければ、何日間もホップして、はやぶさ2を介して、地上に様々な画像を送ってくることでしょう。ローバーからどのような画像が送られてくるのか、今からとても楽しみです。 ◇ 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月22日、小惑星探査機「はやぶさ2」から分離した小型探査ロボット「ミネルバII」の2台が小惑星「リュウグウ」の表面への着地に成功したと発表した。探査ロボは表面に着地した後、ホップして移動し、写真撮影にも成功したことが確認された。JAXAによると、探査ロボによる小惑星への着地と、自律的な移動、写真撮影はいずれも世界初のことだという。
------------------------------- ■荒舩良孝(あらふね・よしたか) 1973年生まれ。科学ライター。「科学をわかりやすく伝える」をテーマに、宇宙論、宇宙開発をはじめ、幅広い分野で取材、執筆活動をおこなっている。主な著書は、『ニュートリノってナンダ?』(誠文堂新光社)、『5つの謎からわかる宇宙』(平凡社)、『まんがでわかる超ひも理論』(SBクリエイティブ)など