いじめを受けながら、「いじめの加害者」として教師から尋問を受けた名門私立中学生男子のヤバすぎる結末
思わぬ形で収束
だが、意外な形で、この3件のいじめ事件は収束の道筋が示された。 「もし被害生徒とその保護者が『謝罪を受け入れ許す』となれば、加害側生徒の授業復帰を認め処分はしない――」 この学校側の方針が示されてすぐ、加害側が被害側へと謝罪の場が設けられた。学校側が被害生徒とその保護者を呼び、まず経過を説明、これが済むと加害側の生徒と保護者が被害側に謝罪するという流れである。学校関係者のひとりが言う。 「謝罪の儀式は、3件、3人の被害生徒に対するものだったのですが、正直、学校側としては何とかして加害側の生徒も傷つけず守ってあげたいという配慮の気持ちがありました。なので管理職を中心に被害生徒と保護者には、とにかく許せという熱心な説得が行われました」 ところがここで学校側の予期せぬ事態が起きる。ひとりの被害側生徒の保護者が謝罪を受け入れなかった。その保護者は管理職教員からの「謝罪を受け入れて、彼らをお許し頂けますか」との問いに、次のように問うてきた。 「謝罪を受け入れるとはどういう状態を指すのか。今後どうなるのか――」 この問いに管理職教員は、「加害側の生徒が授業に参加。すべてを水に流し、今後は被害、加害の側、どちらも関係なく、仲良く教室で学業に励む」と説明した。 これに被害側の保護者夫婦は納得いかなかったのだろう。謝罪について次のように応えた。 「謝罪をした事実については高く評価する。しかし許すというのは心情的にも困難で、今の時点でそうした気持ちにはなれない」 このひとりの被害生徒の保護者夫婦が謝罪を受け入れなかったために加害生徒側の授業復帰は1週間延びた。
体が悲鳴を上げる
これについて学校側は加害側生徒の保護者らに、「あのご夫婦が謝罪を受け入れないのでご子息の授業復帰が延びました」と説明、結局、1週間後、謝罪を受け入れなかった夫婦の回答を待たずして、学校側の判断で加害生徒らの授業復帰を認め、立て続けに起きたいじめ事件の収束を図った。 厳しい聞き取り調査の間の実質的な謹慎期間が開けると、セキらは被害生徒らとの接触を殊更避けるようになった。そこにはまた指導されたり、今度こそ退学となるかもしれないという恐れがあったことは言うまでもない。 そうはいっても、やはり人はそう簡単に変われるものではなく、懲りないものなのだろう。授業復帰した初日からセキとそのグループメンバーは、イクミ君を再びターゲットとしていじめも復帰させてきた。その様子を見ていたイクミ君のクラスの同級生が言う。 「先生の居ない短い時間にイクミ君は殴られたり弁当を捨てられたりしていました――」 この4月、新年度となり2学年に進級してからは、さらにいじめがエスカレート。セキのグループメンバーに取り押さえられ、腹部を殴る蹴るの暴力行為や、男子便所のたわしで体を擦る「キレイキレイ」といったいじめが1学年の時にも増して行われるようになったのは、冒頭で触れた通りだ。 しかし人間とはそんなに強いものではない。自分では強いと思っていても体が悲鳴をあげる。食べては吐く。頭痛がする。やがて学校に行けなくなった。現在、不登校。病院からは「うつ病全治3か月」の診断が出た。 淡いブルー地に太目の白のペンシルストライプ、大き目の格子柄模様、短髪に髭がよく似合う、一見、教師というよりもホストといっても通用する装いのイクミ君の担任教師は記者の「学校名は出さないので」という条件を何度も確認したうえで次のように学校側の舞台裏について語った。 「イクミ君については私個人は可哀そうというか気の毒だと思いますよ。でも、昨年頻発した3件のいじめ事件の加害側にいた。だから学校としては『仲間内のふざけあい』で済ませたかった」 結局、イクミ君ママをはじめ、イクミ君の同級生とその保護者ら複数人らの働きかけで、かねてから隠蔽体質で鳴るこの名門進学校でも渋々、イクミ君にされた一連の行為を「いじめ」と認定した。