いじめを受けながら、「いじめの加害者」として教師から尋問を受けた名門私立中学生男子のヤバすぎる結末
ついに自分が標的に
ふとイクミ君はこの不安を拭うかのように小学校時代の担任教師が言っていた、「中学校時代の友達は大人になっても生涯続く親友になる」という言葉を思い出した。 「セキと僕は親友だ。ずっと友達としてこの中高でクラスで毎日楽しく過ごして勉強する。この中高を卒業してもその関係は大人になってもずっと続くだろう――」 イクミ君は言う。後になって思うと、「セキと親友だと思いたかっただけ」だったと。 ぼんやりと覆っていたイクミ君の不安は、ある日、思わぬ形で的中する。クリスマス前の12月のある日の男子トイレ内、セキといつものメンバーで集まっていたとき、そのうちのひとりがイクミ君に言った。 「お前の肌、汚くて臭いよな、便所の匂いがする――」 こう言い終えた後、セキを除くメンバー全員がイクミ君を取り押さえ、男子トイレの掃除道具庫に入っていた亀の子たわしを取り出し、イクミ君のカッターシャツを脱がせ、腕、背中、腹部、胸部を擦る。アトピー性アレルギー皮膚炎を持つイクミ君の肌は次第に血だらけとなった。 日頃、便器を擦っている亀の子たわしである。イクミ君ママが、後に、イクミ君本人から聞いたのが次の言葉だ。 「肌の痛さよりも心の痛さのほうが強かった――」 この日を境目にセキのグループメンバーからのイクミ君へのこうした行為が日常化していく。もっともセキ本人からは何もされなかった……。 家に帰ってから肌着のシャツを脱ぐと血と膿がそこには着いていた。これは酷いいじめである。イクミ君は被害者の立場である。でもイクミ君のなかに、「親に言う」という選択肢はなかった。 後にイクミ君が語ったところによると、「親、とくにママに心配をかけたくなかったから」だそうだ。
加害者として取り調べを受けることに
今年、年が明けてから、セキのグループメンバーからのいじめはますます激化した。先でも触れた男子便所の掃除道具、亀の子たわしを用いて体を擦る、彼らの言葉で言う「キレイキレイ」のほか、「サンドバッグ」――複数人で取り押さえられて腹部を殴る、「スペシャルメニュー」――弁当に消しゴムのカスなどを入れて食べさせる……という行為も行われたという。 これほどまでに酷いいじめを受けながらイクミ君は親はもちろん、担任教師にも相談に行けなかった。今、クラスで起きているいじめ事件のひとつは、セキ怖さとはいえ自分がしてしまったこととの負い目があったからである。 イクミ君がこの酷いいじめを受けている真っ最中、大きな変化があった。 先に触れた“陰キャ”孤立化、さらに同級生の水筒に異物を入れて飲ませた件、そしてまた別の同級生を入学時から今年の年明け早々まで「ガイジ(障害児の意味)」「支援学級へ行け」としつこくからかい続けた件――セキが指示して行ったクラスのいじめ事件の被害者たちがほぼ同時期に悲鳴をあげ親に相談、それぞれ個別に親が学校に苦情を申し立ててきたのだ。 こうして酷いイジメを受けながらもイクミ君は、「加害側」として学校側から厳しい聞き取り調査を受けることとなった。 まずイクミ君を含むセキのグループメンバー5人それぞれ個別に別室で隔離された。5人が口裏合わせをしないための措置だ。体育用具庫、空き教室などで隔離されたメンバーは、同級生が授業を受けている間、授業への出席は認められない。携帯電話なども取り上げられたという。 聞き取り調査は、担任、副担任、生活指導担当といった教員らから、「まるでドラマに出てくる警察の取り調べ」(イクミ君ママ)のような過酷なものだったという。イクミ君ママが、この時のイクミ君の心境を代わって話す。 「この聞き取り調査の間、セキや他の連中と顔を合わせずに済んだからいじめられなくてほっとしたところもあった」 結局、この授業に出してもらえない期間は一か月以上に及んだ。途中、学校側から退学処分もちらつかされた。社会全体がいじめに厳しい時代である。実際、学校長はこの加害生徒の保護者らに退学処分の可能性を示唆した。 保護者たちは、子どもの行動について反省すべきこともあるが、それでも納得のいかないこともある。そうした言い分を聞くことなく処分が行われることに反発心を抱くところもあった。