なぜ日本がアメリカ以外で初めて月面着陸する国として選ばれたのか? 「アルテミス計画」探査車開発の見返りに得た切符と、米中競争の影
もともと、2032年に初めて探査車を運転する要員として最初の日本人飛行士を送り込めるのではないかとの予想は日本側にもあった。ただ、アメリカ側の期待の大きさと、もっと早い時期に日本人を月に降り立たせても良いという雰囲気を感じ、人数を増やすことも含めて交渉に力を入れたようだ。 2023年12月には、アメリカの宇宙政策をつかさどる国家宇宙会議で議長のハリス副大統領が「2020年代のうちに外国の飛行士も月面に降り立たせたい」と述べた。ヨーロッパのことだと思った在米メディアもあったが、日米の交渉はこの時点でほぼまとまっていた。 アメリカが日本人の着陸前倒しに肯定的だったのには、探査車による貢献の他にもいくつかの要因が考えられる。一つは多様性だ。アポロ計画で月に行った12人は全員、米国の白人男性。これに対し、アルテミス計画は女性や非白人、他国の飛行士を月面着陸させると明確に打ち出していた。2025年の月周回に臨むメンバー4人には女性や黒人の飛行士、カナダの飛行士が入っており、アジアの国が続く余地はあった。
月面着陸に臨む日本人飛行士はJAXAがこれから選ぶが、NASAのネルソン局長は「どんな人が好ましいか」について、今年4月10日に記者団にちょっとしたヒントを出している。2025年の月周回メンバー4人のうち米国の3人は国際宇宙ステーションへ行ったことがあり、カナダの1人は初めての宇宙飛行だが戦闘機パイロット出身で10年を超える飛行士訓練の実績もある、と経験の重要性を指摘した。来年にも2回目のステーションに向かう航空自衛隊出身の油井亀美也さん(54)や、旅客機パイロットだった大西卓哉さん(48)など、体力と経験に優れた飛行士を抱える日本はこの点でも「資格有り」だっただろう。 ▽追い上げる中国、遅れるアルテミス もう一つは中国の目と鼻の先にあるアメリカの同盟国という日本の立ち位置だ。米国が最大の競争相手とする中国に先んじて、平和利用の場である月に日米が一緒に降りれば「軍事的挑発は避けながら象徴的な絵が作れる」と交渉関係者の一人は説明した。