“村神様”8年目の船出に大注目【白球つれづれ】
◆ 白球つれづれ2025・第1回 新年にあたり、大谷翔平より、佐々木朗希より注目している男がいる。ヤクルトの村上宗隆選手だ。 昨年12月2日。契約更改の席に現れた村上は、晴れやかな表情で26年のメジャー挑戦を明らかにした。つまり、今季がヤクルトスワローズの最終年。差し出された色紙には「優勝 日本一」と記した。 「僕が活躍したら優勝出来るんで。そこだけですね」 この数年、球団とはポスティングによるメジャー行きを話し合ってきた。22年には史上最年少の三冠王。昨年も打撃不振に苦しみながら、最終的には本塁打、打点の二冠を獲得。25歳になればメジャー挑戦の年齢制限もなくなる。これらの諸事情をクリア、チームへの貢献を大として球団側も快く送り出す決断を下した。これなら誰もが納得である。村上は最後の恩返しに、打棒爆発とチームの優勝を誓った。 王貞治、イチロー、松井秀喜ら高卒野手強打者伝説に名を連ねる怪物君である。 数々の最年少記録を打ち立て、プロ7年の通算で224本塁打に600打点。すでに村上の存在はメジャーでも広く知れ渡っている。現地マスコミでは今オフのメジャー移籍が報じられ、中には「日本のジャッジ」とヤンキースの主砲と同格の評価を下す声まである。 これほどの評価なら、多くの球団による争奪戦も予想される。移籍の金額はどれほどになるのだろうか? 一つの指標になるのは3年前にカブスと契約した鈴木誠也の5年8500万ドル(約127億5000万円)あたりだろうか。(金額は推定、以下同じ) 全体的に評価の高い日本人投手に比べ、野手は活躍例が少ないが、それでも村上の場合は「特A」ランクで、さらに近年のメジャーの契約金額はうなぎ上りの傾向にある。これらを勘案すれば鈴木と同様の5年契約と仮定した場合、1億ドル(約150億円)以上は確実。年俸にして約30億円。ヤクルト最終年の同6億円に比べて5倍以上に跳ね上がる計算だ。 もっとも、村上の評価に関してはシビアな声もある。 近年、打撃の確実性は下降カーブにあり、昨季の打率.244はリーグ22位の低率。これには2年前のWBCで同僚だった大谷やメジャー選手のパワーを目の当たりにして、自ら試行錯誤や打法改造を繰り返すうちに変調を来したと言う指摘がある。加えて三振の多さ(昨季は180でリーグワースト)や守備の拙さ(同15失策)も不安材料だ。特に三塁の守備ではメジャーで通用するのか疑問が残る。仮にDHに回れば30本塁打以上の数字が求められる。こうした課題を今季中にどれだけ改善できるかも注目ポイントだ。 21、22年の連覇から、この2年は連続5位にチームは沈んでいる。村上が公言する日本一奪還には、高いハードルが残っている。 髙津臣吾監督が腐心する投手陣の建て直しには、故障からの復活が待たれる奥川恭伸投手やルーキーの中村優斗投手らの大車輪の働きが絶対条件になる。チームの精神的支柱でもあった青木宣親の現役引退もあり、野手陣では塩見泰隆、山田哲人選手らの復調がなければ、村上が孤軍奮闘しても優勝争いは難しい。もっと、厳しい言い方をすれば村上の在籍する今年に浮上しなければ、低迷期はさらに続くことになるだろう。 ヤクルトと言うチームは、順位予想をする評論家泣かせの軍団でもある。 直近6年で最下位、最下位から優勝、優勝。そして5位、5位。このデータなら今季は上位浮上があってもおかしくない。 「野球人として成長したい。今後野球に携わっていく中でいろんな経験をしたい」これが村上のメジャーを目指す原点である。 鮮烈な神宮でのホームランデビューから8年目。“村神様”はどんな置き土産を残してくれるのか? さらに凄みを増して行くのか? 1年間の壮大なドラマを見守りたい。 文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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