なでしこジャパンが東京五輪開幕カナダ戦に執念ドローも高倉監督の采配に疑問…不可解な選手起用
PKそのものを獲得したのは田中だった。左タッチライン際でこぼれ球を拾い、抜け出した長谷川が放ったグラウンダーのアーリークロスに対して、カナダの最終ラインの背後を突いた田中がタイミングよく走り込んできた。 もっとも、果敢に飛び出してきたカナダの守護神ステファニー・ラベが視界に入ったからか。ダイレクトでシュートは打てないと判断した田中は、身体を反転させながら右足でボールにタッチ。そのままかわそうとした直後にラベと接触して転倒した。 ブラジル人のエディナ・アウベス主審は、最初は田中のファウルを宣告した。直後にビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)のチェックが入り、アウベス主審がオン・フィールド・レビューを実施した結果、なでしこにPKが与えられた。 試合中に獲得したPKのキッカーを、実はなでしこは決めていない。1-0で勝利した14日のオーストラリアとの国際親善試合でも、長谷川を含めた周囲から大役を託された岩渕が成功させていた。今回も獲得したのが田中だったから、という流れがあった。 しかし、田中との接触で痛めたラベの治療で、実際にPKを蹴るまでに7分ほどの時間を要した。痛みからか。治療中にラベが涙ぐむ場面もあった。果たして、小刻みな助走からゴール左を狙った田中の一撃は、ラベに完璧に防がれてしまった。 「あまりにもコースが甘すぎました。笑っちゃうぐらい、と言うとちょっと厳しい表現になりますけど、それだけ甘かった」 スピードも不足していた田中のPKをこう評した鈴木氏は、事前にキッカーを決めていなかった点に端を発した、まさかのPK失敗をこう位置づけた。 「ある意味で(高倉監督の)采配ミスじゃないかなと思っています」 不可解な采配は選手起用にも見られた。ゴールキーパーをオーストラリア戦で完封勝利に貢献した山下杏也加(神戸)から、池田咲紀子(三菱重工浦和レッズレディース)に代えた点に、鈴木氏は「ちょっと理解できなかった」と言及する。 「どちらのキーパーがいい、というのを決めるのは難しいかもしれないが、東京五輪前で最後の強化試合で素晴らしいパフォーマンスを見せた山下を、代える必要性はまったく感じられなかった。フィールドプレーヤーと違って、この選手でいこうと決めたはずのゴールキーパーを代えるのは、けがなどがない限りは絶対にやらないことなので」 後半15分には左サイドから放たれたクロスを、池田がまさかのキャッチミス。こぼれたボールを押し込まれ、万事休すと思われた直後にオフサイドの旗が上がった。VARのチェックでも判定が変わらなかったなかで、鈴木氏はキーパーの人選にこう言及する。 「不安定なプレーが前半からいくつもあった。ただ、池田うんぬんではなくて、オーストラリア戦で山下があれだけいいプレーをしたのになぜなのか、という疑問です」 カナダの先制点は中途半端に前へ出ていた左サイドバック、北村菜々美(日テレ・東京ヴェルディべレーザ)の背後に通された縦パスが起点になった。カバーでつり出されたセンターバックの南萌華(浦和)の寄せも甘く、マイナスへ折り返されたクロスを国際Aマッチ300試合に到達した38歳の大ベテラン、FWクリスティーヌ・シンクレアに決められた。