【海外トピックス】トランプ返り咲き後の世界はどうなる。EVは大失速するのだろうか?
EV補助金は就任初日に廃棄される?
もう一つの関心事である温暖化ガス排出抑制やエネルギー・EV政策についてはどうでしょうか。これについては、安価なエネルギー供給の御旗の下で、バイデン政権が抑制していた新規の油田や天然ガスの採掘を促進し、再生可能エネルギーへの補助を減らしそうです。パリ条約からは2度目の脱退を表明するかもしれません。7,500ドルのEV購入補助金を含む総額50兆円規模のIRA法案は議会を経ないと変更できませんが、下院も共和党多数になればこれも可能でしょう。但し手続きに時間がかかるので、当面、リース車両にも適用され実質EVの8割が対象になっている補助金の適用基準を厳しくするなどで制限することはありそうです。 テスラのイーロン・マスク氏の政権入りが確実視されていますが、同社のEVの価格は既に全米の新車平均販売価格(4万8000ドル)を下回っており、マスク氏は補助金がなくなっても影響ない、むしろ競争には利すると発言しています。 もう一つ、IRA法下のEV関連投資への援助ですが、S&Pモビリティによれば、米国には既に2110億ドル、510カ所のEVや関連部品の生産工場の計画が進行中で、その84%はミシガン州など中西部のラストベルトや、テネシー州や南北カロライナ州など今回共和党が勝利した州に立地しています。これらの工場は135,000人の直接雇用を生むと見込まれ、これへの補助金や減税を中止することはないという見方が大勢です。最近のトランプ氏はEVを許容する発言が増えていますが、「遠くへ行けないクルマを押し付ける」バイデン政権の政策は破棄し、「EVも選べる。但し特別な補助はしない」という方針になるのではないでしょうか。
CO2排出規制は緩和になるのか
もう一つ焦点はCO2排出規制です。今年4月に米国環境保護局(EPA)は2027~2032年の温暖化ガス排出基準を決定しましたが、これは乗用車などのライトビークルで2032年に2026年比で56%の削減を求めるもので、1マイル走行あたり85g/マイル(53g/km)と非常に厳しく、販売の半分以上をEVにしないと満たすことは困難です。 HEVやPHEVも一定量を想定していますが、「中心的なシナリオ」では2032年に56%をEVと見込んでいます。これには自動車メーカーの業界団体(AAI*)や全米自動車販売店協会(NADA)も高すぎる目標だと依然として懸念や反対を表明しています。GMやフォードなどの自動車メーカーも、EV販売の伸び悩みでEV投資を後ろ倒しし、新たにHEVやPHEVの開発に着手しています。トランプ政権がCO2規制を緩和したり後ろ倒しすれば、日本の自動車メーカーにとっても好ましいことでしょう。但し、規制変更には手続きを踏む必要があり2年近くかかる見込みです。*Alliance for Automotive Innovation