忙しい年末には歌舞伎座の一幕見で話題の玉三郎・團子、浅草観音初詣のあとは勢いのある若手の舞台を
■ 観ておきたい玉三郎の『天守物語』 歌舞伎座の十二月大歌舞伎(12月3日~26日※休演・貸切日あり)で、岸本さんがスケジュールに都合をつけて、幕見で行っておこうと思っているのは「天守物語」だという。 「玉三郎は、“精“とか”幽霊“とか人間でない存在を演じるのも格別。坂東玉三郎(74歳)の『天守物語』は何度でも観ておきたいものなんです。 天守閣をあらわす舞台装置や照明で、化け物が棲む世界を味わうには、遠くから観るのもいい。玉三郎・富姫の美しさは、年齢からいっても近い席で観るより、ひいた席から観るのもいいかもしれません。妖しさが十分堪能できるはずです」 「天守物語」の原作は泉鏡花。玉三郎は、白鷺城(姫路城)の天守閣の最上階に棲む天守夫人・富姫を何十年も当たり役としてきた。 歌舞伎座以外でも過去に多くの舞台公演があり、天守に上がってくる若き鷹匠・姫川図書之助(ひめかわずしょのすけ)として、真田広之(1985年)、堤真一(1993年)なども玉三郎の富姫と共演している。 今回、図書之助を演じるのは市川團子(20歳)。このことを聞いた團子は、まさか僕が! と驚いたと語っている。 「図書之助が團子と発表されて、歌舞伎ファンも驚きました。玉三郎ぐらいになると、松竹がかなり配役を相談するので、玉三郎が團子を希望したということでしょう」 ■ 玉三郎に指名された團子の可能性 市川團子は、市川猿翁(三代目市川猿之助 1939~2023)の孫にあたる。 猿翁の息子である父の香川照之(58歳)が、2011年に歌舞伎の世界に入って、市川中車を襲名したのと同時に、團子を襲名した。 「團子は、猿翁の弟・市川段四郎の息子である四代目市川猿之助(49歳)に教えをうけて、いずれは五代目市川猿之助を襲名すると考えられていました。 ところが2023年5月、親子心中をはかったとされる事件で、猿之助は舞台に復帰するめどが立っていません。同年、祖父である猿翁も亡くなっています。 歌舞伎は、後ろ盾がいてこそ、芸を教わることもでき、いい役もつくと言われる世界。今後、團子はどうなるのだろうかと心配されたのも事実です」 しかし、今回、図書之助に抜擢されたことは、玉三郎がそうした不安定な境遇にある團子に芸を伝えていこうとする表れだと受け取られたのだという。 團子は、2023年5月の猿之助休演を受けて、急遽代役もつとめた。2024年の『スーパー歌舞伎ヤマトタケル』では、中村隼人(31歳)と役代わりで主役を立派につとめて評価されている。 「團子の舞台を観て、上手いと感じると同時に、顔が小さいなあと思いますね。 昔から歌舞伎役者は、顔が大きいのが良しとされていました。 私が若い頃に観ていた十七代目中村勘三郎(1909~1988)、七代目中村芝翫(なかむらしかん 1928~2011)、四代目中村雀右衛門(1920~2012)といった名優たちは顔が大きかった。おかげで、舞台で見得(みえ)を切ると、江戸時代の役者絵のごとく感じさせる不思議な効果があったものです」 時代が変わって、十七代目勘三郎の孫である勘九郎(43歳)・七之助(41歳)も、かつての役者たちのように顔が大きくはない。 「さらに若い世代であり身長179㎝の團子は、なかでもKPOP歌手やモデルのように顔が小さい。父の市川中車の顔は小さくないので、客室乗務員だったという母ゆずりと想像されますね。ファッション誌のグラビアでも違和感がなく、BTSやLE SSERAFIMのファンだと公言し、新世代の歌舞伎役者なのだなあと感じます」 歴代の猿之助は、歌舞伎界に革新的な新しい風を吹かせてきた。 團子は、これまでは澤瀉屋(おもだかや・猿之助一門)の芝居の出演が中心だったが、「初めて違う家の方と共演する今回、たくさん学びたい」と語っている。 猿翁や猿之助という後ろ盾は失ったが、玉三郎と共演するチャンスに恵まれた團子には、新たな風を吹かせる次の猿之助になっていく可能性がある。