チャペル・ローンが語る、ポップの超新星が歩んできた「茨の道」
有名になることの弊害、音楽仲間や偉大な先輩の支え
ローンはカントリー歌手のオーヴィル・ペックに返信し忘れたことに気づいた。ローカルのドラァグクイーンたちにツアーの各公演の前座を務めてもらうというのは、もともと彼のアイデアだ。「彼に返事をしてないなんて、だらしないにもほどがある」。少し苛立った様子でそう話しているうちに、彼女はビリー・アイリッシュにもテキストを送るつもりだったことを思い出した。 最近の彼女は常にこんな感じだ。普段はすぐ返信するようにしているが、彼女のスマートフォンには200件以上の未読メッセージが溜まっている。「いつもはこんなふうじゃないの」と彼女は言う。「今は私らしくないことのオンパレード。すっかり変わってしまった自分に、ひどく失望してしまう」。 有名になればなるほど、かつての自分との距離が広がっていく。「頭が混乱していて、自分が自分じゃないみたい」と、彼女は繰り返し口にする。「ある女性のことをすごく好きになったけど、積極的になれないの。誰も私のことを理解してくれない気がして。アーティストとは付き合いたくない、頭のおかしい人ばかりだから。私はすごくネガティブで、『彼女には私のことが絶対に理解できない。うまくいきっこない』って思ってしまう」。 ローンの新しい恋の相手は「業界とはまったく無縁」の人で、辛抱強く、今の混乱に満ちた状況について理解してくれているという。「彼女は本当に素晴らしくて、自分に自信があって、『無理しなくていいよ。友達のままでいたいならそれでもいい』って言ってくれた」とローンは話す。「今の私は首を切られた鶏みたいにあちこち駆け回っていて、『え? 結婚なんて無理!』って感じだから。今はそういう妄想ばかりしてる」。 今年6月、ノースカロライナ州ローリーでのヘッドライナー公演の最中に、ローンは感極まって泣き崩れてしまった。涙を流しながら、彼女は観客に「今日はちょっと調子が悪い」と打ち明けた。猛スピードで変化していく環境に、彼女はついていけずにいるからだ。「必死でがんばってた。劇団員みたいに『キャラクターになりきらなくちゃ!』って」と彼女は話す。「動画で私の情けない姿を見たら、みんな幻滅するんじゃないかって不安だった。あの日の私は本当にダメで、正直に伝えないといけなかった」。 ローンはファンとの関わり方を見直さないといけなかった。彼女は「ケイリー」と呼ばれても反応せず、写真撮影にも滅多に応じない。あるファンから一緒に写真を撮ってほしいと頼まれた時、恋人と喧嘩していた彼女は明らかに様子がおかしかった。 「私のことをどこにでもいる平凡な女として見てほしい」。筆者の前で発したその発言を、彼女は8月に投稿した不気味なファンの行動についてのTikTok動画でも繰り返している。「その辺にいる見ず知らずの女に怒鳴るなんてありえない。それってキャットコールやハラスメントだから」。 「ストーカーがいるの」。彼女は不意にそう口走った。ミズーリで会ったその人物は、彼女の両親の家やニューヨークのホテルの部屋にまで現れたという。「おかげで警備をつけなきゃいけなくなった」と彼女は認める。「マジで最悪」。 身の危険を感じた出来事はそれだけではない。7月にローンがシアトルへ飛んだ際、そのフライト情報を手に入れたファンが空港で待ち伏せしていた。ある男性は彼女がサインを拒否したことに腹を立て、空港警察がやって来るまで彼女を罵倒し続けた。その男性は、彼女がロサンゼルス国際空港に戻ったときもパパラッチの一団と共に現れた。「家に辿り着いた瞬間、膝から崩れ落ちた」と彼女は話す。「今は薬の影響で滅多に泣かないけど、その時は嗚咽して叫んだ」。 8月、ローンが友人の誕生日をバーで祝っていたとき、あるファンが彼女に無理やりキスをした。その夜、彼女の父親の電話番号がネットに流出し、誰かが父親に電話をかけたことを知った。我慢の限界に達した彼女は、TikTokやInstagramに先述のような動画やコメントを投稿した。 音楽仲間たちも彼女のことを心配していた。チャーリーXCXは『BRAT』の大ヒットで多忙な日々を送っていたにもかかわらず、真っ先に連絡してきた友人のひとりだ。ローンの様子を常に気にかけているビリー・アイリッシュは、「Good Luck, Babe!」が今年一番のお気に入りの曲だと語っている(ローンが返信を忘れていても)。ヘイリー・ウィリアムス(パラモア)は彼女にDMを送り、いつでも話を聞くと伝えた(「彼女は最強よ」とローンは言う)。ケイティ・ペリーからはコメントを読まないようにというアドバイスを、ロードからは空港で目立たないようにするための秘訣のリストをもらった。バンドのMunaからは夕食に誘われ、マイリー・サイラスからはパーティーに招待された。レディー・ガガは電話番号を教えてくれたものの、恐縮してまだ連絡できていない。ルーシー・ダッカスやジュリアン・ベイカーとは一緒に散歩したり、コーヒーを飲んだりした。同じくボーイジーニアスのメンバーであるフィービー・ブリジャーズはローンの自宅で共に時間を過ごしながら、ますます「攻撃的で暴力的」になっている一部のファンの行動について苦言を呈した。 今年の顔と言うべき存在のサブリナ・カーペンターは、会ってお互いの近況報告をしようと誘ってくれた。「私たち2人とも、今はものすごくクレイジーなことを経験してる。何もかもが凄まじいスピードで飛び交っていて、振り落とされないようしがみついているだけで精一杯だって彼女は言ってた」とローンは話す。「そう感じているのは私だけじゃないって知って、すごく勇気づけられた」。シカゴのVic Theatreのバックステージで、ローンはその朝に届いたミツキからの長文メールを見せてくれた。そこにはこう綴られている。「世界最低の非公開クラブにようこそ。ここでは見知らぬ人があなたを自分のものだと思い込み、あなたの家族を特定して嫌がらせをしてきます」。 ローンは携帯に登録されている有名人の名前を挙げている途中で、それがどう受け取められるのか不安に思い、言葉を止めた。「有名人の友達がいることを自慢しているわけじゃないの」と彼女は話す。「私が言いたいのは、優しい女性たちがお互いを助け合っているということ。名前を出したのは、彼女たちがいい人だってことを知って欲しいから」。 皆がそうだというわけではない。「『いつでも話を聞くよ』って言ってくれる男性はあまりいない」と彼女は指摘する。これまでに声をかけてくれたのは、オーヴィル・ペック、トロイ・シヴァン(ローンの初期からのファン)、ノア・カーン、そしてエルトン・ジョンの数人だけだ。「長い間、それこそ子供の頃からずっと憧れてたアーティストから連絡をもらうと、本当に嬉しくなる」。 2023年初頭に彼女を知って以来ファンになったエルトンは、彼のラジオ番組「Rocket Hour」で「Pink Pony Club」を流している。今年の夏にローンとニグロを自宅に招いて一緒にピザを食べた彼は、それ以降彼女の様子を気にかけており、よく見知らぬiCloud番号から電話をかけてくるという。当初ローンはそれがエルトンからの電話だとは気づいていなかったが、彼は5日間で11回も連絡を試みていた。「ファンが私のiCloudを見つけたのかと思ったの。マジでムカついて、友達と一緒にイタ電かけてやろうとしてたんだ」。彼女は笑ってそう話す。「ある日その電話に出てみたら、エルトン・ジョンだった。すごく辛いって正直に伝えたら、彼は『立ち止まる必要があるなら、やめると言えばいいんだ』って言ってくれた」。 「彼女のことは大切に思っているんだ」とエルトンは話す。「彼女は優しくて、純粋で、素晴らしい人だ。ステージを降りた彼女はチャペル・ローンではないんだよ。僕と少し似ているのかもしれない。ずっと前からの友人のように思える、私にとって特別な存在なんだ」。 ローンが男性からの連絡が少ないことに気づいたのは、業界の二重規範に敏感になってきたからかもしれない。SNSで飛び交う「インダストリー・プラント(業界が作り上げたアーティスト)」という無意味な言葉は、狂信的なファンが集うTwitterのコミュニティでは特に女性に向けられることが多い。「知りもしない誰かを業界の操り人形だって決めつけるなんておかしい」と彼女は言う。「単に自分が情報に疎いだけかもしれないって考えないのかな」。 ローンが8月にTikTokに投稿した動画に対する批判は、業界の二重規範の存在をより明確にした。これらの動画がきっかけとなり、SNS上では名声や権利意識、あるいは「有名税」についての議論が巻き起こった。しかし批判する人々は、何年にも及ぶ活動にも関わらずほんの数カ月前までほぼ無名だった若い女性が、状況の急激な変化に伴って直面する安全面の懸念を見落としがちだ。 映画館やバー、スーパーに気兼ねなく行けるよう、ローンは髪を切って茶色に染めることを考えた。実際のところ、ネット上で「ファンに対してもっと寛大」とされているセレブたちも、外出するために何十万ドル、あるいは何百万ドルものお金をセキュリティ面に費やしている。 「私は閉じこもりたくない。私と同世代のアーティストの大半がそう感じてる」と彼女は話す。「みんな私と同意見。誰もがファン絡みで嫌な思いをしてる。中にはすごく我慢強い人もいるけど、私はそうじゃない」。 ※続きはRolling Stone Japanのウェブに掲載
BRITTANY SPANOS