『プレミア音楽朗読劇 VOICARION XVIII~Mr.Prisoner~』上川隆也・林原めぐみ・山寺宏一・藤沢文翁 インタビュー
“自由とは何か”を問う、美しい物語、美しい言葉について
――この作品の着想を得て執筆された時の藤沢さんのお気持ちと、キャストの皆さんがこの作品を「一生演じたい」と思うほどの魅力について、お話しください。 藤沢 どうやって話を思いつくのか、言葉で説明するのは本当に難しいです。『Mr.Prisoner』はそもそも、さらに数年前に遡って、ある舞台で開演24時間前にメインキャストの方が体調不良で降板された時、山寺さんがすべての仕事をキャンセルして出演してくださったんです。僕が「どうやって恩返しすればいいかわからないです」って言ったら、山寺さんは「良い作品、また書いてよ」。ご本人としては軽口でおっしゃったのかもしれないけど、僕は「わかりました」と答えました。それから数年経ってシアタークリエで結構な長期間、しかも2作連続上演を行うことになった時、山寺さんへの恩返しも兼ねて「“七色の声を持つ男”山寺宏一で “声を聞いてはならない” 囚人の話を創ろう」って思ったんです。 これは余談ですけど、初演の評判がとても良くて、僕たちも気分が良かった。千秋楽の後の飲み会が終わって帰りのタクシーのドアを開けて降りようとしたら、当時はまだLINEじゃなくメールで山寺さんが「あの時のお礼、確かに受け取りました」って。 一同 おぉ……(拍手)! 山寺 それ、本当? あまり覚えてない。 藤沢 あと、この作品は群像劇みたいにそれぞれの立場で演じられる舞台なので、3人プラス1で和気あいあいとやらせていただいているのがとても幸せだったし、書いて良かったと思いました。 上川 僕のモチベーションは、“追いつけないこと”です。声優さんはあまたいらっしゃいますけれども、その中でも突出したおふたりとご一緒して、声だけの表現はやっぱりおふたりには追いつけないと思う。だからこそ、僕にとっては目標として見失うことなく、その背中を追いかけていけることに意味があります。 林原 ……という、どこまでも真摯な姿勢の上川さんと、常に何かを研究していて知識と共にスタジオで披露する山寺さん、共演者や演奏者から受ける刺激があります。そして、この物語は教育というものを知らない子が真の教育を持つ囚人からそれを得ます。学校が辛い場所だと思う子供も少なくない中、知りたい、見たい、から始まる学びがどれだけ人を幸せにするか……。例えば、推し活だってより知りたいという学びです。(笑)時に、裕福であることは幸せかもしれない。でも、SNSを含めて、皆から羨ましがられる場所にいて「いいね」って言われていても、どこか抜け出したいと思っていたとしたら、誰もが、この物語のテーマでいうところの“囚人”となり得るわけで、「自分のいるところが苦しければ、そこは牢獄だ」ということが心に響く10代、20代、30代、40代、50代はいるんじゃないかなぁ。それがテーマ的にとても広くて、矛盾するようですけど、それでいてとてもピンポイントで。そこに関わっている自分をとても光栄に思います。 山寺 上川さん、林原さんと一緒にできることがまず幸せです。作品としては「自由」っていうキーワードがいっぱい出てきて、「自由とは何だ、生きるとは何だ」という問いが根底にある、本当に美しい物語、美しい言葉、美しい作品なんですよ。 上川 うん、美しい。 山寺 それが本当に大好きなんですね。今回の再々演で多少変わるところもあるでしょうけど、根本的には一緒なのに、黙読してるだけでも涙が出てきちゃう。今日(取材は7月中旬)はもう家で泣いてきたから大丈夫かなと思って読み合わせしたら、やっぱり涙が出た。本番はどうなっちゃうんでしょうね。そのくらい毎回新鮮に感じるし、大好きな物語です。