『プレミア音楽朗読劇 VOICARION XVIII~Mr.Prisoner~』上川隆也・林原めぐみ・山寺宏一・藤沢文翁 インタビュー
“オリジナル音楽朗読劇”という独自のジャンルを打ち立てた藤沢文翁による原作・脚本・演出のもと、「超豪華キャスト×生演奏による美しい音楽×想像力を刺激する脚本・演出」のまさに“プレミア”なシリーズ「VOICARION」。その第1弾として2016年に上演されたのが、『女王がいた客室』(出演:竹下景子ほか声優キャストの日替わり出演)、そして『Mr.Prisoner』の2作だった。2019年の再演、そして今回の再々演と、上川隆也・林原めぐみ・山寺宏一のキャストは不動。19世紀のロンドンを舞台とする「絶対に声を聞いてはならない」と言われる囚人・Mr.Prisonerの物語について、キャスト3人、そして藤沢文翁は何を思うのだろうか。 【全ての写真】上川隆也、林原めぐみ、山寺宏一の撮り下ろしカット
8年前の初演、そして4年前の再演での思い
――3演目を迎えるにあたって、まず初演・再演を振り返ってお話しいただけますか。 上川 僕は長年『アニメーション好き』を患っておりまして。 林原 「患い」なんだ(笑)。 上川 はい。そんな僕に「『VOICARION』というシリーズが始まる。共演者は山寺宏一さんと林原めぐみさん」と、降って湧いたような声かけがあったんですよ。もちろん、一も二もなくお受けしました。冷静に振る舞ってはいましたけど、心のどこかでは常に浮き足立っていたような記憶があります。再演でも基本的な心情は変わらないながら、親交も深まっていきましたし、お二方や藤沢文翁さんも含め作品に関わっている皆さんと培っていくチームワークが、そうしたものとはまた別の楽しみや湧き立つ思いをつくっていってくれますので、長年の患いとはまた違う心持ちでいます。 林原 そもそも私は声優になりたくて声優になり、良く言えば秘められた、悪く言えば閉じられた世界でできることに魅了されてここまで至っているわけですけれど、時代もずいぶん変わりまして、声優という職業も外に出ることが当たり前になってきました。私が声優になりたての頃はそこまでではなく、あくまでも裏の仕事だというところをベースに生きてきましたが、たまたま仕事で共演が多く、何かと縁の深い山寺さんから一本釣りされまして。 一同 (笑)。 林原 「ちょっとやってみないか」ということで、『Mr.Prisoner』とは別の作品に参加させていただきました。そこで朗読劇というものにふれて、声を使って読むことによってお届けできる世界の新しい鐘の音を感じた、という印象です。『Mr.Prisoner』は、最初に集った時のことは忘れていませんし、山寺さんはそうでもないですけど、上川さんはお稽古の1回目だけはすごく緊張されていました。でも2回目からは完全に、何もかも掌握してるような印象すらあって。本番の振る舞いと佇まいは、ただただ尊敬でした。 上川 いやいや(笑)。 林原 やっぱりすごい方だなと。私たちの仕事は、演出を受けたら自分の考えとすり合わせて変えていったり、「自分はこういうふうに解釈したけど、それは違うのか」と考えたりといった柔軟性が大切だと思うんですね。それは音響さんでも衣裳さんでもそうで、そうした吸収と加味と放出の速さが素晴らしくて、「自分はすごいところにいるな」と思ったのが初演です。再演はすぐ後にコロナ禍になって、世の中の空気が少しずつ変わっていきました。演劇を観ることや楽屋で挨拶をすることに対しても、もちろん我々は自信をもって作品をお届けするつもりでいますけど、何か事故があれば、どんな良いものもあっという間に否定されてしまったりする。そういう何だかわからない影に怯えながら、やらなくてはいけないことに翻弄されているスタッフの姿を見ていました。しかもこの作品は「牢獄からの自由」という話でもあるので、再演できたことだけでも奇跡だって当時感じましたね。 山寺 初演の時、「一生やり続けたい作品と仲間を得たな」って思いました。林原さんとはデビューの時からアニメーションではたくさん共演させていただいてきましたけど、まさか上川さんと一緒にできるとは思ってなかった。僕が出会ったなかで、一番の人格者ですよ。そういう3人と、音楽家の方も含めたこのチームでできたことを本当に嬉しく思います。そして、藤沢さんとは数々の作品を一緒に創ってきましたけど、この作品は本当に、声が続く限り、体が続く限り、やりたいと思った作品だったので、再々演の知らせが来て本当に嬉しかったですね。 藤沢 初演で上川さん、林原さん、山寺さんっていうキャスティングになって、その方々が目の前に座った瞬間、浮き足立っていました。しかも僕の場合、今回は原作・脚本・演出なので、浮き足立つ×3なんですよね。その3つが同時にあったのが初演だった気がします。演出って、最初はそのキャストにどういう言葉が届くのか考えながら、言葉を変えたりするんです。例えば山寺さんと僕は落語っていう趣味が一緒なので、例え話でそれを使った方がいいとか、使う言葉をそれぞれのキャストに合わせて見つけていく作業が演出家の最初の仕事だと思っています。初演ではそこからスタートして、上演し、上演後一緒に飲みに行ったりしてプライベートでのつき合いも始まり、そこがどんどん肉厚になって、演出する場所で自分が思っていることを伝えるのが楽になる。そして再演になり、さすがに演出している時は演出家モードになるんですけど、後から自分が演出している時の録音を聞くと、「なんでこの人たちにそんな偉そうなこと言ってるんだ」っていう。 上川 それが演出ですから(笑)。 藤沢 今回もまた、家で録画・録音を聞いた時に同じように思うんだろうなって。ただ、8年という時間、そして4年前も上演したことで、演出家として出てくださっている皆さんとより熱いものを作れる関係値になれたんじゃないかと思います。