『プレミア音楽朗読劇 VOICARION XVIII~Mr.Prisoner~』上川隆也・林原めぐみ・山寺宏一・藤沢文翁 インタビュー
演技と演奏との共感関係によって紡がれる世界とは
――音楽朗読劇として、演奏から演技へのフィードバック、あるいは共感関係などを含め、音楽についてどのような魅力を感じていますか。 藤沢 実は、本作が音楽監督・小杉紗代さんとの最初の仕事だったんです。彼女とは友人の紹介で知り合ったんですが、その時に自作のCDをもらいました。部屋でそれを聴いた時、「この人は天才だ」と思いましたね。話を創る時にはいろいろなところからインスピレーションをもらいますが、音楽を聴いた瞬間にストーリーが浮かぶこともあります。『Mr.Prisoner』の場合、彼女の作曲した楽曲を聴いた時にロンドンの冷たい地下牢が思い浮かんで、そこから話が組み上がった。それで音楽監督をお願いしようと思って「こんな話だけど作曲できる?」って聞いたら、「この曲聴いて脚本書いたでしょ」と言ってきた曲が、まさにそれ。大当たりでした。そこから共同作業みたいな感じでスタートしました。印象に残ることとしては、林原さんの演じるレスの成長過程において、オペラを観るシーンがあるんです。そこは「オペラを観ているレスを360度カメラでぐるぐる見ているうちに、彼女がだんだん大人になっていくような曲を創ってほしい」ってオーダーしました。そうして出来上がってきた曲が2幕目にあるので、ぜひお楽しみに。 林原 まさか、そんなオーダーで普通は創れないですよね……(感嘆)。 山寺 この作品の音楽には、共鳴しかないです。まさに“音楽朗読劇”で、言葉は交わしてなくても共演して一緒に舞台を創っている感覚で、音楽の影響ってこんなに大きいのかって思うくらい。今日の読み合わせでは録音した演奏を流してもらいましたが、フッといろいろなシーンが蘇ってきますし、「ああ、これ!」という刺激がたくさんあった。演奏家の皆さんと合わせるのが本当に楽しみですね。先ほど演出家がおっしゃったレスがオペラを観る場面は、曲の間は我々の朗読はないんです。「360度カメラで……」というオーダーをしたということは初めて聞きましたけど、本当にそういう映像が思い浮かぶ。小杉紗代さん、すごすぎますね。 林原 アニメのアフレコ現場ってSEもないし、基本無音です。出来上がっている時も出来上がってない時もある絵の中にゼロから命を吹き込む作業で、その後にダビングという形で音楽がつく。でもこの舞台は、演じている時に同時に音楽が奏でられて、時に包み、時に引っ張り、怒りを煽り、悲しみに誘い、自分の中で創り上げて投じる感情の波と、音楽の波がずれない。お互いに大切に思っているからこそ、例えば「邪魔だな、この音」とか「ここでは私はまだ盛り上がりたくないのに」とかいうことは皆無。それが、もはやありがたいことなのかどうかすら気がつかないっていう妙があると思います。 上川 舞台でも映像でも、演じている間に目にするもの、例えば手触りや空気感、共演している役者の立ち振る舞いや表情、その人と握手したならその肌感や温度など、すべてがお芝居の材料になりますし、影響を受けずにはいられない。しかし「VOICARION」というこの演劇形態は、演者は自分たちのスポットから動きませんし、お客様にとってのビジュアルの変化も最小限でお届けしています。だからこそ、3人の声と音楽だけが、その時僕らを包むすべて。最高のミュージシャンが紡いでくださる音楽に、僕らが影響を受けない訳がないんです。生で演奏してくださっているからこそ、役者の演技と同じように毎日違う。僕らの間に音楽が合わせてくださることもあれば、音楽の間がこうだから僕らもここでのっていこうとか、相互の関わり合いが舞台を創っていく。そんなことも頭の片隅においてご覧になっていただけると、見え方が違ってくるのではないかと思います。 ――まさに“音楽朗読劇” なのですね。 上川 はい。