「折紙工学、メタマテリアルで製造業を変える」 Nature Architects の須藤海CEO
SUITS OF THE YEAR 2024 受賞者インタビュー(3)
「SUITS OF THE YEAR 2024」のビジネス部門で受賞した須藤海さんは、東京大学大学院にて折紙工学を研究したのち、メタマテリアルを活用した製造業向けの製品設計アルゴリズムを開発するNature Architects(ネイチャーアーキテクツ)の創業に参画、現在は最高経営責任者(CEO)を務める。同社の技術は今、家電、アパレル、自動車、航空・宇宙と幅広い分野で注目され、次々と製品に実装されている。メタマテリアルの可能性について伺うとともに、須藤さんの今後の抱負、ビジネススタイルで重視することなどを聞いた。 【写真はこちら】須藤海CEOが「しっかり体にフィットしている」と評したスーツ、着こなしやディテールをチェック!
■単体では実現できない物性を引き出すメタマテリアル
――まずはNature Architectsの核となるメタマテリアルという技術について伺えますか。 「はい。メタマテリアルとは、ある材料に計算から導き出した幾何学的な形を与えたり、材料を複合化したりすることで、単体の材料では実現できなかったマクロな物性を引き出した人工物のことです。今日お持ちした模型は、メタマテリアルをわかりやすく説明するためのものです」 ――幾何学的な形状といいますか、どれもたいへん複雑な構造ですね。たとえばこの青と赤で色分けした模型はどういうものなのか、説明してもらえますか。 「こちらは熱交換器の模型です。たくさん空洞を設けていますが、青いところと赤いところの空洞は交わりません。この青いところに冷たい水を流して、赤いところには暖かい空気を流すとします。すると赤いところから出てくる空気が冷却される。壁面を伝って熱が交換されるからです」 「エアコンの室外機はこれに似た原理で熱交換を行っているのですが、この模型では空洞の表面積を限界まで増やし、かつ空気がうまく流れるように計算した構造を与えているため、それを格段に効率よく行えるんです」
■「カタチのチカラ」、形は世の中を変える力を持つ
――メタマテリアルという語感からなんとなく近未来的なものを想像していましたが、家電のように私たちの生活に密着したものにも活用できるわけですね。 「そうです。軽い材質のものでも形を工夫することで、堅牢(けんろう)性、静音性、防振性、衝撃吸収性など、さまざまな性質を付加できますから」 ――モノの形を工夫することで様々な特性を持たせることができるわけですか。そういえば須藤さんは今回仕立てたスーツの裏地に「カタチのチカラ」という刺しゅうを入れていましたね。あれは須藤さんのポリシーですか。 「はい。『形で価値を創造する』ということが当社のビジョン。私自身、形が世の中を変える力を持つと信じていまして、それを一言で表したのが『カタチのチカラ』という言葉です」 ――今回のスーツ・オブ・ザ・イヤーは「五感を刺激する」をテーマにしているのですが、モノの形が変わると、人間の五感にも影響を与えるものなのでしょうか。 「はい。たとえば触感がそうですね。今度はこちらの模型を手のひらに乗せてちょっと揺すってみてください」 ――面白い動きをしますね。グルングルンと振動が伝わってきて手のひらが心地いいです。硬いプラスチックなのに柔らかい感じもしますね。 「これは相棒の谷道鼓太朗(Nature Architects CTO=最高技術責任者)がデザインしたもので、プラスチックをらせん状の形にまとめたものなんです。不思議な触感ですよね。素材自体は硬くても、構造を変えることで様々な触感を生み出せるんです」 「触覚ばかりか、味覚にも形は大きく寄与します。食材は切り方次第で大きく味が変わることは知られています。たとえば肉の脂身と赤身の部分が適切に積層した成型肉を作ることで、高級ステーキ肉を食べているかのような味も再現できます」