「我が子に発達障害があるけど、特別な支援が必要とは思わない」卓球・平野美宇三姉妹を育てる母親の思い
とはいえ、亜子は特性から苦手なことが少なくありませんでした。たとえば、学校から帰ってきたら靴をそろえる、食事のあと口のまわりをきれいにふくといった習慣がなかなか身につきませんでした。何度言っても忘れてしまうんです。あんまり注意や指示ばかり言うと親子関係にもヒビが入る気がしたので、「頑張り表」を作りました。「靴をそろえる」「靴下を洗濯かごに入れる」と、取り組むべきことを全部細かく書き出して、それができたら丸をつけるという表を作りました。すると、亜子は丸がほしくて積極的に取り組むし、注意や指示よりほめる機会が多くなり、親子で笑顔になる時間をたくさん持てるようになりました。
■目標が見つからなかった次女にかけた言葉 ── オリンピック女子団体銀メダリストの長女の美宇さん、大学に通いながら卓球にも打ち込む亜子さんと、お子さんたちは夢中になれるものがあるのですね。 真理子さん:早い段階から夢中になれる卓球を見つけた美宇と亜子に対し、次女の世和はやりたいことがなかなか見つけられませんでした。卓球は好きで成果もあげていたものの、とことん勝利を極めたいという選手向きな性格ではなく、幼いころから球出しを進んで行うような子。私がいないときは代わりに練習を仕切ってくれたり、亜子の進路の相談相手になってくれたり、頼もしい私の右腕でした。そんな世和から「どうしてみんな、夢や目標が見つかるの?自分が何になりたいのかわからない」と相談されたことがあります。実際は早くから目標を見つけられるほうが珍しいと思うのですが、姉妹を見て、自分だけ取り残されたような気がしたのかもしれません。
だから「世和みたいな子は多いと思うよ。将来、どんな目標ができてもスムーズに進められるよう、準備だけはしておこう」と話しました。すると、世和は気になる職業があれば、どうしたらその仕事に就けるか調べ、どんな学校に進学したらいいか、そのためにいまできることは何か、どんどん自分で考え、前に進んでいきました。 うちの三姉妹は料理が好きなので、一緒によく作ったりもしました。目の前で魚をさばいたり、みそを仕込んだりすることも。子どもは好奇心旺盛だから「何やっているの?私もやりたい!」と興味を持つんです。最初は手つきがぎこちなくても、上達していきます。世和と亜子は、小学3年生ころにはひと通りの料理ができるようになりました。高校時代は毎朝、お弁当を自分で作って登校しました。こうした経験がいつの間にか夢につながったようで、現在、世和は大学で管理栄養士の資格を取得することを目標に勉学に励んでいます。