ロードゴーイング458の最も硬派なモデル、スペチアーレでテストドライブ800km! これは有終の美を飾る1台だ!!【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】
これは至福のテストドライブだ!
【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】ご存じ中古車バイヤーズ・ガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の過去の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2014年10月号に掲載されたフェラーリ458スペチアーレのリポートを取り上げる。ついに日本で乗る機会がやってきた458スペチアーレ。いったいどんな感触なのか? リポーターは深夜にキーを取り、テスト・ドライブに出発した。 【写真16枚】ロードゴーイング458の最も硬派なモデル、スペチアーレはどんなフェラーリだったのか? 詳細画像でチェックする ◆首都高速から東北道へ 真夏の太陽がまだギラギラと照りつける午後、フェラーリ・ジャパンから借り出してきた458スペチアーレは、新潮社の駐車場に停めたままだった。取材撮影は明日の朝。いつものようにそのまま夜明けを待つはずだった。けれど、何がそうさせたのか、僕は458スペチアーレの鍵を手に駐車場へと向かっていた。時計の針はあと1時間もせずに日付が変わることを告げていた。 キーをステアリング・コラムのシリンダーに挿し込み、ステアリングホイールについた赤いボタンを押すと、背中の低い位置に押し込まれたV8エンジンは、瞬時に目覚めた。ブアッと威嚇するように吠えた直後に、排気音はブゥッーと低く押さえこまれ、ファスト・アイドルが始まる。低く、といっても真夜中。右のシフトパドルをカチッと一回引いて、真正面にあるレヴ・カウンターのなかに“1”が点り、その下にAUTOと表示されていることを確認すると、電子式のパーキング・ブレーキを解除して、そろそろと458スペチアーレを通りへと出した。 1mmの遊びも許さないぞとばかりに右足への力の入れ具合に反応しようとするV8をなだめながら、飯田橋の首都高速入り口を目指す。ステアリングホイールについたマネッティーノのダイヤル・スイッチはSPORTの位置にある。 首都高速に上がり、流れに合流する。ジョイントを乗り越えると、いちいちはっきりそれと分かるが、ショックはきつくない。が、かすかに強めの上下動きが出る。スターター・ボタンの上側に並ぶダンパー・スイッチを押す。回転計左の液晶表示パネルにBUMPYROADの文字が出る。これで、路面入力の小さい時の減衰力が緩むはず。途端に、ノーズは動きをゆっくりとしたものに変え、ジョイント通過やうねり越えでも姿勢がぐっと落ち着いた。430スクーデリアで導入されたこのダンピング制御モードはほんとうにありがたい。荒れた路面での乗り心地が劇的に改善される。 458スペチアーレでも、それは変わらなかった。458イタリアのようにソフトといいたいほどにまでしなやかになるわけではないが、レーシング・トラックでの走行にフォーカスを合わせ込んだこのクルマに、首都高速を平和に走るような速度でも、不満を覚えない至極まともな乗り心地を与えてくれる。 458イタリアがそうであるように、458スペチアーレもまたギアリングは驚くほど低い。1速からきっちり等分して割っていったかのような7段のギアリングは、下のギアではあっという間に上限速度に到達してしまうだろう。タイト感きわまりない速度の支配力。右足の1mmの踏み込みでスッと加速し、わずかでも戻せば、強力なエンジン・ブレーキがかかる。パワートレインがパイロット・スポーツ・カップ2という強烈なグリップ力を発揮するタイヤを使ってスピードを拘束するかのように支配下に置いている。 しかし、それだけに、渋滞は得意ではなかった。真夜中の工事渋滞。長蛇の列をなしているのは大型トラックばかりだったから、慌てて加速しては止まり加速しては止まりの愚には巻き込まれずに済んだものの、1速、2速のアイドリング付近を使って車間を微調整しながら緩々と進むような状況は、458イタリア以上に苦手であることがわかった。そんなことがわかっても嬉しくなどないが、加速だけでなく減速にもパワートレインが緊密に関与するから、なんとなくスルズルというのがひどく不得手だという事実は事実だ。 ◆太く乾いた、力感漲るサウンド 渋滞をなんとか潜り抜けて基点の5号線まで戻り、今度はそのまま東北道へと鼻先を向け、ペースを上げた。車両制御モードはSPORTのまま、センター・トンネルから何か菌類のように生えたスイッチ・ストークに配置されたボタンでマニュアル変速モードに切り替え、積極的にエンジン・ブレーキを使う。 右足を深く踏み込んだ途端、458スペチアーレは声高らかに吠え始めた。テール・エンドから響いてくるエグゾースト・ノートは、458イタリアやスパイダーのそれと明らかに違う。もっとずっと低い音域に弾けんばかりの力感を漲らせた、太く乾いたサウンド。458イタリアのように高い声を乗せてくるかと期待する気持ちを容赦なく撥ね付けるようなそれは厳しい音だ。 4000rpm、5000rpm、6000rpm、7000rpmと凄まじい勢いで駆け上がるクランク・スピード。しかし、458スペチアーレの図太い2本の排気管は謳わない。噛み付くように吠えるだけだ。4.5リッターの自然吸気8気筒エンジンが、その持てるポテンシャルを形振りかまわず搾り出し、すべてを駆動力に転化しようとしているかのよう。太く乾いた音には、雑味が混じらず、痛いほどに澄んでいる。ビートを叩きつける音は、180度クランクを使ってハイチューンの4気筒エンジンの2丁掛けとした素性をまざまざと想起させるような激しい音でもある。 トップ・エンドの回転域に踏み込むには、勇気が要る。覚悟というべきものかもしれない。力感を炸裂させる音に気圧されるのもひとつの理由だ。しかし、それ以上に、加速力が凄まじい。そこへ踏み込んでパワーを解き放っていいものか躊躇する。公道で容易に使えるような感じがまるでしないのだ。クローズド・トラックで自由にしてやるべき領域ではないのか、という予感が消えない。 1度だけ、断固、覚悟を決めて、低いギアで9000rpm近くまで引っ張りあげると、クルマの全身にむずかるような緊張感が漲った。回せば回すほどに、際限なく上昇していくかのような駆動力。さしものパイロット・スポーツ・カップ2も、期待できる路面摩擦力が低い公道のアスファルトに必死でしがみつこうとしているかのようだった。しかし、全身に張り巡らされた電子制御の番人は、暴走を許したりはしない。素性が秘めたパワーが檻を破ろうとする気配を感じても、怯む必要はないのだ。 ◆抜き差しならない緊張感 それにしてもこの、これまでに経験したことのない感触はなんなのだ。恐ろしいほどに正確なレスポンスを見せるステアリングの感触は、硬く重い。それでいて惚れ惚れするように滑らかでもある。ずしりと座りのいいステアリング。けれど、458イタリアと比べてクルマがひとまわりも小さくなったかのような鋭いピックアップ特性と突き抜けるような加速力は、このクルマが明らかに軽いと告げているのに、まるで路面に貼り付くような重厚感がある。速度を上げれば上げるほど、そのビシッとした重さは印象的になっていく。ダウンフォースの働きに違いない。意図的に速度を大きく上げ下げしても、この軽くて重い、魔法のような安定感は変わることがない。 458イタリアの美しい衣装に切った貼ったを加え、さらには可動式の空力デバイスまであれこれと投入した458スペチアーレの真骨頂をそこに見る思いがした。本気なのだ。458スペチアーレは、抜き差しならない緊張感を宿し、もうどこひとつとして動かせないようなバランスを保っている。剥ぎ取れるものを根こそぎ剥ぎ取り、変えられる所はすべて部材を置き換えて軽量化を図った458スペチアーレは、英語圏でよく使われる“シアー・ドライビング・マシーン”という表現を思い起こさせた。何もかもが、スポーツ・ドライビングにフォーカスをキリキリと合わせ込んで考え抜かれ、構築されている。458スペチアーレはもっともっと介入してこい、ドライビングに没入しろと、クルマがけしかけてくる。 東北道から北関東道、常磐道、磐越道、東北道、北関東道、関越道、外環自動車道、そして首都高速と繋いで編集部へ戻ると、夜が明けていた。駐車場に停め、ふうぅと溜息をつく思いでエンジンの火を落とし、バケット・シートに嵌っていた身体を外した。458スペチアーレから出ると、刹那、全身をどっと脱力感が襲った。まるで、精力を根こそぎ吸い尽くされたかのようだった。 458イタリアが使い方をクルマから問うことのないオールマイティなスポーツGTカーだとするなら、458スペチアーレは、快適性の確保を最小限にとどめ、すべての資源をドライビング・ファンと速さに集中投下したピュア・スポーツカーだ。 458スペチアーレは間違いなく、360モデナに始まった新時代V8フェラーリのフォーマットの最高到達点だと思う。新型市販モデルを投入すると、純レーシング・バージョンを作り、そこで得たノウハウを投下してスペシャル・バージョンを作って真価を問い、次のモデルチェンジにフィードバックしながら確実にステップ・アップしてきたミドシップV8フェラーリ。458スペチアーレは、その流れの有終の美を飾る1台といえるのではないか。 その後、深い藍色に彩られた衣装も麗しい458スパイダーのテイラー・メイドを、458スペチアーレを知った身体で走らせると、スパイダー・ボディはこんなに違ったかと驚くほどに、フレームが緩かった。 458の後継モデルは遂にターボ過給エンジンに転じると情報が伝わり始めた。マクラーレンの650を越える出力を捻り出すと専らの噂だ。アルミ・フレームのままいくのか?CFRPバスタブに転向するのか? 新しい時代が、ふたたび始まる。 文=齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=柏田芳敬 ■フェラーリ458スペチアーレ 駆動方式 ミドシップ縦置きエンジン後輪駆動 全長×全幅×全高 4570×1950×1205mm ホイールベース 2650mm トレッド前/後 1680/1630mm 車両重量 1480kg エンジン形式 V型8気筒DOHC 32V直噴 総排気量 4497cc 最高出力 605ps/9000rpm 最大トルク 55.1kg/6000rpm 変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT サスペンション形式 前 ダブルウィッシュボーン/コイル サスペンション形式 後 マルチリンク/コイル ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク(CCM3) タイヤ 前後 245/35ZR20/305/30ZR20 車両本体価格 3390万円(試乗車:3952万7000円) ■フェラーリ458スパイダー 駆動方式 ミドシップ縦置きエンジン後輪駆動 全長×全幅×全高 4530×1935×1210mm ホイールベース 2650mm トレッド前/後 1670/1605mm 車両重量 1630kg エンジン形式 V型8気筒DOHC 32V直噴 総排気量 4497cc 最高出力 570ps/9000rpm 最大トルク 55.1kg/6000rpm 変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT サスペンション形式 前 ダブルウィッシュボーン/コイル サスペンション形式 後 マルチリンク/コイル ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク(CCM3) タイヤ 前後 235/35ZR20/295/35ZR20 車両本体価格 3150万円(試乗車:4376万4000円) (ENGINE2010年10月号)
ENGINE編集部
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