増え続ける「非正規」…ここ30年、「成果主義への転換」がもたらした混乱と課題【経営学者が解説】
評価基準の変化(年功序列から能力重視・成果重視へ)
人事システムの変化の第三は、評価基準の変更である。 経験年数や年齢を基準にした評価制度から、競争原理・市場原理に基づいた能力重視の制度、さらに成果を重視した制度が採り入れられてきた。高度経済成長期から安定経済成長に至るまで日本企業のほとんどが、年功序列をベースに一次評価者(直属の上司)による主観的評価を加味する評価制度を取り入れていた。しかし、馬車馬の如く働いて上司に忖度することが当然とされてきた常識が通用しなくなり、評価に対して客観性・公平性・透明性・納得性が求められるようになった。 ほとんどの大手企業で、当該職務の内容や将来の進路希望、目標、能力開発に関して自ら考えを申告する「自己申告制度」や、上司との対話を通して仕事の達成目標を設定してその達成度に応じて評価を行う「目標管理制度(MBO)」を採用するようになった。また、上司だけでなく同僚や部下の評価を加味する多面評価(360度評価)を導入する企業も少なくない。 ポスト不足や技術・技能の多様化・高度化が進む中で、徐々に昇進・昇格制度に括弧付きではない成果主義的要素が多少なりとも取り入れられるようになってきたのも事実である。わが国で初めて成果主義的評価制度が導入されたのは1980年代半ば、2004年頃までにおよそ90%が成果主義的要素を取り入れているとしていた(*7)。 しかし、それから20年を経た今日に至っても、年功序列制度的慣行が完全に払拭されたかといえば、答えは否である。とりわけ、人材確保が難しい中小企業で成果主義的人事制度を採用している企業の数は限られている。
賃金制度の変化(仕事給、成果給、年俸制等)
第四は、賃金制度の変化である。 日本的経営の神器である年功序列も昭和時代後期にもなると、職務遂行能力に重点をおいた職能給や、職務の重要度・困難度に重点をおいた職務給など仕事給の要素を組み込んだ給与体系が採用されるようになった。もっとも、年功的要素がかなりの部分を占めていた(*8)。 しかし、景気低迷が長引く中で、2000年前後になって大企業を中心に仕事給や成果給の比重が徐々に高められた。また、外資系企業など一部の企業で、年俸制やストックオプション(自社株購入権 *9)といった報奨金制度を導入する企業が登場しはじめたのもその頃である。蛇足ながら、こうした賃金制度改正の中で、一部の労働組合が「成果主義的な制度導入によって成果や貢献などの評価に基づいて公平な賃金を得られることになるから、従業員のモチベーションもモラールも改善される」と実しやかに喧伝していたのは印象的であった。 何にも増して、賃金制度の最大の問題は、一人当たり国民所得が30年間とほぼ同額だということではないだろうか。