増え続ける「非正規」…ここ30年、「成果主義への転換」がもたらした混乱と課題【経営学者が解説】
勤務形態の多様化(フレックス、変動労働制、時短勤務等)
人事システム変容の第二は、勤務時間や勤務場所など「勤務形態の多様化」である。 平成時代の半ばを過ぎた頃から、「9時から5時まで」「いつものオフィスで」といった一律で画一的な勤務体制から、仕事の内容に応じた多様な体制が取り入れられるようになった。たとえば、一日の標準労働時間の中で出退勤時間を個人の状況に合わせて自由に選択できる「フレックスタイム制」や、労働時間を月単位・年単位で調整することによって繁忙期等に勤務時間が増加させても時間外労働としての取扱いを不要とする「変形労働時間制」、育児や介護などのための「短時間勤務」などが次々と制度化された。また、研究開発部門や情報システム部門の技術者などの賃金が時間以外の規準によって決定される職種に対する「裁量労働制」や、実労働時間の把握が難しい場合に適用が認められている「みなし労働制」なども導入されるようになった。 さらに、インターネットの普及と通信の高速化・大容量化を追い風に、情報通信技術を活用して時間と場所を自由に使った柔軟な働き方も推進された。テレワークやSOHO(スモール・オフィス、ホーム・オフィス)、フリーアドレスなどの新しいタイプのオフィスも誕生して、個々人の仕事のタイプに合わせて働き方や勤務場所が弾力化した。2006年政府が「IT新改革戦略」を発表して、2010年までに就業者人口の2割をテレワークにするといった目標を掲げたが、今もって、その目標は未達である。 パンデミック時の緊急事態宣言下で、政府が在宅勤務70%を要請したにもかかわらず、期待したほどリモート・オフィス化が進まなかっただけでなく、IT先進国といった幻想の実態を曝け出すことになったことは記憶に新しい。パンデミックの終息と共に、以前と同様にラッシュ時の電車は通勤客でごった返すようになったが、ICT社会が多少なりとも広がったことはプラスの効果であったといえるかもしれない。