選挙のニュースはなぜつまらない? ── 水島宏明氏に聞く(1)
選挙になってくると1回1回の放送が有権者の投票行動に影響を与えかねないので、この要請がいつも以上に強く求められます。また各政党や候補者たちも放送内容に敏感になって、「あの放送は自分の政党をおとしめる内容だ」とか「対立する政党に有利になる放送だ」などと言って、「政治的に公平」ではない、とか、「選挙の公正を害」した、つまりは偏向報道だった、などとして放送局にクレームをつけてきます。 放送局の中にいると、選挙の前後にはそうした声に対応するのは本当に大変です。正直うんざりするほどいろいろな陣営からクレームが届きます。もちろん、それぞれの政党や候補者の立場になってみれば放送の表現次第で当落が左右されかねないと必死ですから仕方がない面はあります。 放送局の内部にいる人間にとっては、選挙期間中の報道はそうしたクレームが来ることがないように、という経験則で行動します。ごく分かりやすく言えば、こうした各政党などの顔色をうかがいながら一種の「クレーマー対策」に近いような形で今の報道姿勢がかたち作られていると言ってよいかもしれません。 ---------------- 水島宏明(みずしま ひろあき) 法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター。1957年生まれ。東大卒。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー 『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科 学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。近著に『内側から見たテレビ』(朝日新書)。