700万契約を突破も、再び顧客の“質”を問われつつある楽天モバイル
先行投資による赤字に苦しむ楽天モバイルだが、ここ最近明るい材料が増えているようだ。以前にも触れたプラチナバンドによるサービス提供もその1つといえるが、同社にとってより大きな意味を持つのが、契約数が急速に伸びていることだ。 【画像】「Rakuten Optimism 2024」2日目の様子 ■700万契約突破の楽天モバイル。顧客獲得が好調な理由 楽天モバイルのMVNOなどを除いた契約者数は、2022年に一度500万契約を突破したものの、その後月額0円で利用できる料金プランを終了したことで、しばらく契約数の減少が続いていた。だが2023年8月に再び500万契約を突破して以降、同年12月には600万契約を突破。そして2024年6月16日には700万契約を突破するに至っている。 しかも当初、その契約数の伸びをけん引していたのは2023年に始まった法人向けサービスであったのだが、2024年に入ってからはコンシューマー向けサービスの契約数も好調な伸びを見せるようになってきた。2024年6月末時点ではMVNOとしてのサービスなどを含んだ全ての契約数で770万、携帯電話サービスに限定しても703万契約に達しており、順調に契約者数を伸ばしている様子を見て取ることができるだろう。 そして、契約数の伸びは売上の伸びへとつながることから、KDDIとのローミング契約継続による投資コストの抑制なども合わせて、楽天モバイルの赤字解消に向けた好材料となっている。実際、楽天モバイルの親会社である楽天グループは2024年度第2四半期決算で、マーケティング前キャッシュフロー(PMCF)が黒字化したことを明らかにしている。 このことは、楽天モバイルが顧客獲得のためのマーケティング施策を打たなければ黒字化していることを示している。楽天モバイルが単独での黒字化を視野に入れつつあり、経営状況が大きく改善されつつあるようだ。 とりわけコンシューマー向けサービスに関して、楽天モバイルの顧客獲得が好調な理由の1つに挙げられるのは、2024年に提供開始した各種割引施策である。実際楽天モバイルは、今年2月に家族契約を対象とした「最強家族プログラム」を、3月には22歳までの若いユーザーを対象とした「最強青春プログラム」を、そして5月には12歳以下を対象とした「最強こどもプログラム」を相次いで提供している。 楽天モバイルはそれまで「シンプルなワンプラン」にこだわり、割引施策を展開してこなかった。だが、一連の割引施策を展開した結果、ファミリー層から好評を得たようで、13歳から44歳までという比較的若い層を中心とした獲得が進んでいるようだ。 そしてもう1つは、楽天モバイルの既存顧客による紹介や、「楽天市場」「楽天カード」などグループ企業のサービス利用者に向けた加入キャンペーン施策である。これらはいずれも、楽天モバイルを契約すると何らかの形で「楽天ポイント」を獲得できるというものになる。 一例として、現在実施されている紹介キャンペーンの第3弾を挙げると、楽天モバイルを紹介した人に1人当たり7,000ポイント、紹介された人が番号ポータビリティ(MNP)で転入した場合は1万3,000ポイント、新規契約の場合は6,000ポイントが入るというものになっている。お得なキャンペーン施策での獲得が、契約数の伸びをけん引している側面も強いようだ。 ■好調な一方、他社動向から見て取れる疑問点 ただ、楽天モバイル契約数の伸びが好調な一方で、他社の動向を見ると疑問点も浮上してくる。なぜなら競合他社からは、楽天モバイルへの流出が起きているという声があまり聞かれないからだ。 実際、今年8月に実施された携帯大手3社やその親会社の決算説明会で、各社のトップは一律に、楽天モバイルへの大規模な顧客流出が起きておらず、影響をほとんど受けていないと話していた。またMVNOの動向を見ても、大手であるインターネットイニシアティブの「IIJmio」の契約数は順調に伸びており、やはり楽天モバイルに顧客が流出している様子は見られない。 一方で、楽天モバイルは競合の携帯電話会社からの流入が加速しており、それが契約純増数の伸びにつながっているとしている。実際同社の決算説明会資料を見ると、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの競合3社から2024年4月には7万4,000、5月には5万5,000、6月には5万9.000の流入があったとされており、単純計算すれば3社は3ヵ月で1社当たり約6万契約が流出していることになる。 なぜ楽天モバイルへの流入が増えているのに、競合他社はあまり影響を受けていないのだろうか。その理由として浮上しているのが「SIMのみ契約」である。これは文字通り、スマートフォンなどを購入せずにSIM単体で契約することなのだが、ここ最近そのSIMのみ契約で乗り換えた人に対してポイントなどを還元する、いわゆるキャッシュバック施策を実施するケースが増えているのだ。 実は、SIM単体で契約した顧客に対しても、電気通信事業法で2万2,000円までの利益供与が認められている。そこで、いわゆる「1円スマホ」の規制など、スマートフォンの値引きに一層厳しい規制がかけられて以降、SIMのみ契約でMNP転入してきた人に対し、最大で2万2,000円相当のポイントなどを還元する施策を実施して他社からの乗り換えを促す販売手法が、店頭・オンライン問わず積極的に実施されるようになってきたのだ。 それに伴ってここ最近、SIMのみ契約によるキャッシュバックを目当てとして、携帯電話会社を渡り歩く「ホッピング」行為をする人も増えているようだ。とりわけそのターゲットとなっているのが、月額料金が安くてキャッシュバックで得られる利益が大きい「UQ mobile」「ワイモバイル」などのサブブランドや、「irumo」のような低価格プランである。 とりわけ、SIMのみ契約での販売に早くから力を入れていたKDDIやソフトバンクは、2024年に入りサブブランドでの解約率が急速に伸びており、それが全体の解約率を押し上げる要因となっている。ゆえにキャッシュバック目当てにホッピング行為を繰り返す、ある意味で “質の低い” 顧客が、他社サブブランドや低価格プランでキャッシュバックを得た後、さらなるポイント獲得のためお得なキャンペーンを実施している楽天モバイルに流れているのでは?、という見方ができるわけだ。 楽天モバイルはかつて、通信量が少なければ月額0円で利用できる「Rakuten UN-LIMIT VI」を終了して月額0円施策を止めた際、それを目当てに料金を支払うことなく契約していた、ある意味で “質の低い” ユーザーが大量に流出し、契約数を大幅に減らした経験を持つ。それだけに、ポイント獲得だけを目当てとした質の低い顧客が契約数を伸ばす要因になっているとすれば、施策を止めた途端に顧客が離れ、再び大量流出が起きてしまいかねない。 それだけに楽天モバイルが好調を維持するには、ポイントで獲得した顧客を自社サービスに留め続けること、そして楽天モバイル自身、あるいは楽天グループの各種サービスを使ってもらうことで着実に収益化へとつなげることが、強く求められるだろう。黒字化目前とはいえ、依然安心はできないというのが正直なところではないだろうか。
佐野正弘