V12エンジンは無くならない! アストン・マーティンの旗艦、ヴァンキッシュに自動車評論家の大谷達也が試乗 スーパー・スポーツカーとアストン・マーティンとの決定的な違いとは?
フェラーリ12チリンドリとは出発点が違う!
近年はDBSと入れ替わりながらもアストン・マーティンのロードカーの頂点にあり続けたヴァンキッシュが第3世代へと進化した。イタリア・サルディーニャ島で行われた国際試乗会に参加した、モータージャーナリストの大谷達也が報告する。 【写真37枚】洗練と野蛮 アストン・マーティンの旗艦、ヴァンキッシュの最新GTカー・デザインを写真でチェック ◆ラグジュアリー・ブランドが試乗会の舞台として選ぶ島 ヴァンキッシュの国際試乗会が開かれたのはイタリア・サルディーニャ島。もっとも、島と呼ぶにはあまりにもスケールが大きく、山々を縫うようにして走るワインディング・ロードはダイナミックかつ走りがいがあるほか、立派な高速道路も整備されていて、超高性能車をテストするのにまったく不満がない。数多くのラグジュアリー・ブランドが試乗会の舞台としてこの島を選んできた理由のひとつは、ここにある。 島のワインディング・ロードへ続く一般道をヴァンキッシュとともに走り始める。GT、スポーツ、スポーツ・プラスなどが用意される走行モードのうち、GTを選んで走り始めると、サスペンションが路面の凹凸にしなやかに追従してとても快適な乗り心地が味わえる。先行したDB12も近年のアストン・マーティンとしては異例に足まわりがソフトで快適性は優れていたが、それと並ぶか、ひょっとするとヴァンキッシュのほうがより優しいと感じるくらい、タイヤに伝わる振動を柔軟に吸収してくれるように思える。最高出力835psのV12エンジンを積むハイ・パフォーマンス・モデルであることが、にわかには信じられないほど滑らかな乗り心地だ。 同じV12エンジンを積むフェラーリの最新作“12チリンドリ”もやはり乗り心地は良好だが、あちらはよりスポーティな足まわりを徹底的に熟成することで快適性も手に入れたという印象。これに比べると、ヴァンキッシュはグランドツアラーに求められる快適性を確保したうえで、スポーツ性も両立させたように思える。つまり、2台は出発点がまるで異なっているのだ。 ◆決定的な違い そのことはエンジン音にも表れている。たとえば市街地や高速道路を軽く流しているとき、アストン・マーティンが新たに開発したV12エンジンはその存在を隠しているかのごとく、エグゾースト・ノイズは控えめで穏やかに回り続ける。そして、そういった速度域でも実に従順で扱い易い特性に躾けられていることは特筆すべきだろう。 とはいえ、ひとたびスロットル・ペダルを深く踏み込めば、どんな速度域からでも驚くべきレスポンスとパワーを発揮して、エレガントなデザインのフロント・エンジン・クーペを力強く加速させていく。そんなときには「クォーッ!」というV12エンジンらしい咆吼を控えめに響かせるとともに、やはりV12でしか味わえないスムーズで規則正しいビートを刻んでドライバーの心を高揚させてくれるが、荒々しさや押しつけがましいところは一切なし。この辺が、いわゆるスーパー・スポーツカーとアストン・マーティンとの決定的な違いといっていい。 だからといってワインディング・ロードが退屈なわけでもなく、走行モードをスポーツ・プラスに切り替えれば、どんなハード・コーナリングでもロールをしっかり抑え込むダンピングをサスペンションが生み出し、安定したフォームを保ったままコーナーを駆け抜けていく。しかも、ナチュラルかつリニアリティに優れたハンドリングは慣れるのに時間を要さず、ひとつめのコーナーから自信を持ってステアリングを切り込んでいけるほど優れている。 いっぽうで、タイヤを限界まで追い込む走りをしなくても深い満足感が味わえるのも興味深いところ。ロータス出身のエンジニア氏は「サーキットを走らせても実に楽しい」というが、そんなポテンシャルを内に秘めながらも、ワインディング・ロードやハイウェイを適度なペースで走り続けるとき、ヴァンキッシュは最良の一面を発揮するように思える。 最新のインフォテイメント・システムを備えたキャビンの作りは上質かつ品がいい。それはエクステリア・デザインにも共通していて、無駄な装飾は持たないのに質の高さや育ちのよさがそこはかとなく漂ってくる。ぜいたくな作りの新開発V12エンジンを積んでいても、決してそのパワーや存在感をひけらかすことなく、あくまでもエレガントな振る舞いに徹するヴァンキッシュは、英国貴族の矜持をいまに伝えるアストン・マーティンらしいグランドツアラーといえるだろう。 文=大谷達也 写真=アストン・マーティン ■アストン・マーティン・ヴァンキッシュ 駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動 全長×全幅×全高 4850×2044×1290mm ホイールベース 2885mm トレッド(前/後) 1680/1670mm 車両重量 1910kg エンジン形式 水冷V型12気筒DOHCターボ 排気量 5204cc 最高出力 835ps/6500rpm 最大トルク 1000Nm/2500-5000rpm トランスミッション 8段AT サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+コイル (後) マルチリンク+コイル ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク タイヤ(前/後) 275/35ZR21/325/30ZR21 車両本体価格 非公開 (ENGINE2025年1月号)
ENGINE編集部